例えばどうすればいい?合理的配慮 ~交通機関編~【改正障害者差別解消法が今年4月に施行】
今年4月1日に「改正障害者差別解消法」が施行され、事業者による障害者への「合理的配慮の提供」が義務化されます。
では、私たち事業者は具体的にどのようなことに気をつけていけばよいのでしょうか?この記事は日頃から障害を持った方と接する機会の多い交通機関で働く方々をメインの対象として向け、必要な配慮についてまとめたものです。(文・イラスト:南條)
▼配慮が必要な方々の特徴と、配慮のポイント
さて、前回の記事では、障害者差別解消法や合理的配慮の提供について解説してきました。
※前回の記事:合理的配慮ってなに?【障害者差別解消法が今年4月に改正】
では、配慮が必要な方とはどのような方々で、どのような特徴を持っており、どのような配慮が必要となるのでしょうか。
ここからは障害ごとに特徴とハード面・ソフト面の配慮、具体的な合理的配慮の例を見ていきたいと思います。
1.視覚障害者
視覚障害にはまったく見えない「全盲」、眼鏡などで矯正しても視力が弱い「弱視」、見える範囲がせまい「視野狭窄」などがあります。見え方や移動への慣れ度合は人によって異なり、白杖や盲導犬を使用する場合もあります。
<ハード面の配慮>
●駅や店舗等では視覚障害者誘導用ブロックの設置や段差解消などが望まれます。
●点字を読める人ばかりではありません。案内表示は点字案内だけでなく、音声による案内も望まれます。また、色・文字の大きさなど弱視者に対する配慮も必要です。
<ソフト面の配慮>
●立ちつくしている方がいたらまず声をかけます。進行方向、目的の場所やものがわからないなど困難に直面している場合があるからです。
●歩行の妨げになるため、歩道や視覚障害者誘導用ブロックの上を荷物や自転車などでふさがないこと。
●誘導する時は、白杖を引っ張らず、周りの状況、足元の状況を丁寧に伝えてください。
●必要に応じて車いすの貸出・介助サービスをご案内してください。
<合理的配慮の例>
「列に並んで順番待ちをする場合には、並ぶべき列の終端や徐々に進んでいくタイミングが分からない。」
→店員が順番について把握しておき、順番となるまで列とは別のところで待機できるようにした。
「トイレの場所を聞いたときに入口まで案内してくれたのだが、複数の便器があるトイレだったので中で困ってしまった。」
→同性の店員がいる場合には、トイレの中まで案内するようにした。
「乗車券をクレジットカードで購入しようとすると署名を求められるが、視覚障害があり文字を書くことができない。」
→本人に承諾の上、署名の代筆についてクレジットカードの関係機関に確認するとともに、複数の職員で対応した。
※なお、配慮例については内閣府が「合理的配慮の提供事例」をまとめていますので、ここから抜粋する形で紹介しています。
人間は情報の8割を視覚から手に入れているとも言われ、視覚障害を持った方は交通機関でも限られた情報から判断をする必要があります。
最近では駅などにコードを設置し、スマホで読み取ることで道案内を補助してくれるシステムも様々開発され、実用化に向けて試験段階にあります。
視覚障がい者ナビゲーションシステム「shikAI」(シカイ) 点字ブロックにQRコードを設置し、iPhoneのカメラで読み取ることで、現在地から目的地までの駅構内の移動ルートを導き出し、音声で目的地まで案内する。東京メトロ5駅で導入済みです。 |
「Navilens」
タグ(QRコードに似た四角形のカラーコード)を専用アプリで読み込むと、埋め込まれた情報やタグからの距離を音声で読み上げてくれるシステム。神戸市で実証実験がされています。 |
もちろん、このシステムが導入すればすべて解決、というわけではありません。大切なのはハード面とソフト面、両輪で配慮を心がけていくことですね。
2.聴覚障害者
音が聴こえない、または聴こえにくいという障害を聴覚障害といいます。外見からは障害のあることが分かりにくいために、「不自由なく歩ける」だから「障害は軽い、耳が聴こえないだけ」などといった誤解を受けたり、不利益な目にあったり、危険にさらされたりと、社会生活上の不安は尽きません。
<ハード面の配慮>
●リアルタイムな電光掲示板などの表示を充実することで、災害・事故のときに正確な情報をすばやく伝えることができます。
●手話入り放送・字幕付放送やDVDなどのソフトの充実が望まれます。
●「筆談器があります。」「手話で応対できます。」など、可能な応対方法を示したプレートを用意することもひとつの方法です。
<ソフト面の配慮>
●手話やジェスチャー、筆談などを活用し、情報を提供することが望まれます。
●発音などうまく話せず聞き取りにくい方には、分かったふりをせず、もう一度話してもらったり、紙に書いてもらったりして、意思を確認することが大切です。
●声をかけるときは正面から、会話は「ゆっくり、はっきり」。大声を出す必要はありません。
<合理的配慮の例>
「日常生活で相手の口の動きから話している内容を読み取っていたが、マスクの着用で相手の口の動きが確認できず困っている。」
→メモ、ホワイトボード、筆談器やコミュニケーションボードを使って案内した。
交通エコロジー・モビリティ財団では、簡単なコミュニケーションや会話の導入を目的とした【コミュニケーション支援ボード】を作成し、鉄道、バスを主とした公共交通機関の窓口に配布しています。
こういった支援ボードは聴覚障害者に限らず後に紹介する知的障害、発達障害を持った方や日本語のわからない外国人等、多くの方にやさしいツールですね。
成田空港では、より保安検査時の応対に特化した支援ボードが各保安検査場で用いられています。ぜひご参考ください。
3.肢体不自由
肢体不自由とは、手や足、体の胴の部分に障害があることを言います。歩いたり、立ったり、物の持ち運びや筆記などに支障があり、多くの人が杖や装具、車いすなどを使用しています。
<ハード面の配慮>
●階段しかない駅での乗り換え、ステップの高いバスでの乗り降りは、大変困難です。
●エスカレーターしかない施設での上下移動は危険を伴います。ちょっとした段差や隙間でも危険を伴います。駅のバリアフリー化、ノンステップバスの普及などが望まれます。
●エレベーターの設置。また、エレベーターの位置をわかりやすく表示することも必要です。
●段差をスロープに変えていくことが望まれます。
●大きな建物内には多めの休憩場所を作ることが望まれます。
●バリアフリートイレや車いす使用者用駐車スペースの増設が望まれます。
<ソフト面の配慮>
●困っている様子を見かけたら声をかけ、本人の意思を確認してから援助することが大切です。
●車いす利用者は目線が低く、立ち対応に威圧感を感じるため、目線を合わせて応対してください。
●移動距離を短くし、エレベーター使用を心がけてください。
●必要に応じて車いすの貸出・介助サービスをご案内してください。
<合理的配慮の例>
「駅で車両とホームの隙間に車椅子の前輪がはまりそうで怖い。」
→ホームの幅が狭い上に点字ブロックがあり、車椅子で方向転換ができない。職員が乗降の介助を行った。
「歩行が困難で車椅子を利用している。空港の利用を予定しているが、館内のエアラインカウンターまで車椅子を押してほしい。」
→事前に空港の利用予定日時や荷物の個数等を聞き取り、駐車場到着後にインフォメーションへ再度連絡するように依頼した。当日はスタッフが駐車場へ向かい、エアラインカウンターまで対応した。
「自動精算機の順番待ちにおいて、行列が折れ曲がるように配置されていると、車椅子では並べないことがある。」
→自動精算機ではなく、有人の窓口で精算を行った。
「両替機のタッチパネルに手が届かず入力できない。」
→本人の了承を得て、本人に入力内容を確認しながら、担当者が代わりに入力を行った。
4.内部障害
病気などで身体の内部の働きが弱くなったり、できなくなったりする機能の障害を内部障害といいます。外見からは分からないため理解されにくい障害ですが、疲れやすい、トイレに不自由するなど、周囲の方の理解と配慮を必要とする障害です。
<ハード面の配慮>
●駅、コンビニ、スーパーなどにオストメイト用設備を備えたバリアフリートイレ等の設置と案内表示が望まれます。大型施設や駅等には、休憩所やベンチを設けることも望まれます。
<ソフト面の配慮>
●頻繁にトイレに行ったり、トイレの時間が長くなったりします。また障害で疲れやすくストレスを受けやすくなっていますのでゆったりとした作業時間などに配慮しましょう。
●ヘルプマークやヘルプカード等をお持ちの場合、記載内容を確認し応対してください。
●混雑した場所での携帯電話やスマートフォンの使用は、ペースメーカーに影響を及ぼすことがあります。マナーモードではなく必ず電源を切るようにしてください。
●移動距離を短くし、状況に応じてエレベーターやエスカレーターの使用の移動を心がけましょう。
東京都主導で展開しているヘルプマークは、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで援助を得やすくなるよう作成したマークです。より内部障害への理解が今後広まっていくと良いですね。
5.知的障害、発達障害、精神障害、その他配慮の必要な方々
知的障害:生活や学習面で現れる知的な働きや発達が同年齢の人の平均と比べゆっくりとしていることをいいます。先天的・後天的さまざまな原因による脳の機能障害です。
発達障害:脳の機能障害によって生じるもので、自閉症などの広汎性発達障害や注意欠如多動性障害、学習障害などがあります。
精神障害:精神疾患により継続的に日常生活に相当な制限がある方が、精神障害者に当たります。認知症、アルコール依存症や統合失調症、うつ病や不安障害、摂食障害、てんかんなど様々な疾患が含まれています。
<ハード面における配慮>
●交通機関の利用、機械の操作などバリアとなるものがたくさんありますので、分かりやすい表示や人による支援が重要となります。
●案内表示は、誰にでも分かりやすい表現や図示、音声ガイドなど分かりやすい情報提示が必要です。問い合わせ先等の表示や情報理解を支援する人の配置も重要です。
<ソフト面の配慮>
●敬意をもって、自分ならこうしてほしいという対応をしましょう。
●顔を見て、ゆっくり丁寧に簡単な言葉で、その人がどうすればいいのか分かるように話します。
●ジェスチャーやイラストなどによる視覚的な伝達手段の方が理解されやすいです。
●パニック状態の時は、安全を確保しつつ見守り、無理に止めようとしないでください。
希望があればカームダウン・クールダウンスペースなど静かで落ち着ける場所に誘導しましょう。
<合理的配慮の例>
「言葉だけでの指示だと、内容を十分に理解できず混乱してしまうことがある。」
→身振り手振りやコミュニケーションボードなどの視覚的な支援も用いて内容を伝えるようにした。
「パニック障害があるため、必ず介助者の隣に座りたい。」
→ほぼ満席になっており隣り合った空席がなかったが、他の乗客の御了解を得て座席を変更し、隣り合って座れるよう調整した。
「考えていたことと違ったことや通常とは異なる場面への対応が苦手で、パニックになる場合がある。電車やバスなどを利用している際に、事故発生で止まったり遅れたりするなどの異変が生じたときは、状況が理解できるよう丁寧に伝えてほしい。」
→障害特性を理解して、アナウンスする場合は、分かりやすく丁寧なアナウンスを心掛けた。
全国の空港では、静かで落ち着けるカームダウン・クールダウンスペースの設置が広がっています。
交通エコロジー・モビリティ財団|カームダウン・クールダウン Calm down,cool down についてより
その他、高齢の方は加齢によって視力や聴力、運動能力や順応性の低下がみられ不安を抱える方もいます。さらには妊産婦、乳幼児連れの方、ケガをしている方など配慮が必要な方々も様々です。
▼基本は、望まれる接し方をすること。
公共交通機関は、年齢・性別・国籍を問わずさまざまな方々が利用されます。
そのなかで、障害のある方、高齢の方などに対して、必ずしも特別扱いが必要というわけではありません。ごく普通に応対し、望まれる応対方法があるお客様に対しては、可能な限りご希望に沿えるよう努めることが基本です。
大切なのはしっかりコミュニケーションをとること。
障害やその方の置かれた状況、望まれるサポート方法は人それぞれです。「その障害を持った方と接したことがないから」と臆することなく積極的に声をかけ、相手の立場に立って応対しましょう。