聞こえにくいと感じる人は1,400万人以上、電話を使わずどうやって問い合わせるの?
日本補聴器工業会の調査によると、「聞こえにくい」と感じている人は1,400万人以上と推定されています。
「キャッシュカードをなくしてしまった!」
「マイナンバーカードを健康保険証として使うにはどうするの?」
こんなとき、てっとり早いのは電話ですが、耳の不自由な人は電話を使わずどうやって問い合わせるのでしょうか?
(本記事の作成には、株式会社プラスヴォイス、NTTクラルティ株式会社、社会福祉法人名古屋市身体障害者福祉連合会、一般社団法人ありがとうの種、株式会社ミライロの方々に協力いただきました)
1.耳の不自由な人に関する○×クイズに挑戦!
まずは初級編。次のクイズ①〜③を○か×で答えてください
クイズ①
耳の不自由な人は、みんな「手話」で話す |
|
クイズ②
放送には「字幕」があれば、聞こえなくても十分だ |
|
クイズ③
電話ができない代わりに、大多数が「FAX」を使う |
こたえは、一番下にあります! 途中の文章がヒントになるので、参考にしてください。
2.聞こえ方や母語(最初に覚える言語)は、人それぞれ
聴覚に障害がある人は全く聞こえなくて、全員が手話を使うと思っていませんか?
聞こえ方は人それぞれで、この記事では以下のような呼び方をします。
ろう者:生まれつきや、幼少期から全く聞こえず、手話を使う人が多い | |
難聴者:聞こえにくい度合いは人それぞれ。補聴器を使って会話する人もいる | |
中途失聴者:成長してから聞こえなくなり、日本語を使う人が多い |
聴覚に障害があり、障害者手帳を持っている人は36万人ですが、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院の調査では、手話を母語(最初に覚える言語)にしている人は、約6万人です。
難聴者や、中途失聴者は日本語を母語として使っているのです。
3.日本語、英語、手話、ドイツ語、中国語…仲間はずれはある?
手話は、日本語の「おまけ」だと思っていませんか? 日本語や英語のように、手話も言語のひとつなので、仲間はずれはありません。
日本で手話は法律上、言語として認められていなかったので、ニュースなどの放送は「聞こえなくても目が見えるんだから、字幕があれば十分では?」と誤解する人がいました。
これは、日本語が母語の人に英語の字幕をつけるような考え方です。
しかし、2011年に改正障害者基本法が可決され、手話の言語性が認められたのです!
現在では、34都道府県など計456の自治体が「手話言語条例」を成立させています(2022年7月11日現在)。
東京都でも2022年6月に「手話言語条例」を成立し、手話を「独自の文法を持つ一つの言語」と位置付けました。
この条例では特に、「災害時に手話を必要とする人が情報を得られるように努める」とされています。
4.耳の不自由な人の問い合わせ方法
ブライトでは、耳の不自由な方々にとってどのような問い合わせ手段が必要なのか、独自の調査を行いました。
その結果、「手話を母語とする人」と「日本語を母語にする人」によって必要な方法が異なりました。
手話を母語とする人:電話リレーサービス、電話代理支援(東京都)など手話で問い合わせる |
|
日本語を母語とする人:問い合わせフォーム、メール、チャット、FAX、郵送など文字情報で問い合わせる |
手話を母語とする人は、その場で確認できる手話通訳を介した「電話リレーサービス」などを必要とします。
耳の不自由な人が電話リレーサービスを利用するには、専用アプリをダウンロードし登録が必要です。登録後に専用の「050番」から始まる電話番号が与えられます。この番号で通訳オペレータにつながるので、銀行やお店などに問い合わせることができるのです。(電話を受ける人は登録不要です)
2022年6月末時点での登録者数は、9,800人ほど。この電話リレーサービスで、「キャッシュカードをなくした!」などの急ぎの場合でも手話で問い合わせすることが可能になりました。
しかし、金融機関によっては「手話通訳者では本人確認ができないため、来店してください」など対応を断られるケースもあるそうです。また、マイナンバーなどの個人情報を第三者に伝えることに抵抗がある人もいました。
電話リレーサービスは2021年7月に始まったばかり。今後のサービス改善が望まれます。
一方で、日本語を母語とする人は、文字情報でのやり取りを必要とします。
以前は、「FAX」や「郵送」が主流でしたが、若い世代は固定電話やFAXを持っていない人が多く、郵送には時間がかかるため、FAXだけでは十分ではありません。
そこで、記録が残る「問い合わせフォーム」や「メール」を必要としている方が多くいらっしゃいました。
その他、マイナンバーなど新しい制度を知るには「ホームページのよくある質問が分かりやすいと、問い合わせなくても解決できる」などの意見もあがりました。
5.お手本とされる窓口対応は?
東京都では2020年11月から、都庁の窓口における聴覚障害者向けコミュニケーション支援を強化しています。
窓口に設置されたQRコードを読み取ることで、遠隔手話通訳を利用することができます。
※引用:東京都福祉保健局|遠隔手話通訳(QRコード利用)
また、電話リレーサービスに登録していない人のために「電話代理支援」もスタートしました。
※引用:東京都福祉保健局|電話代理支援
このように、聞こえる人と聞こえない人が、同じ情報を同じタイミングで得られるよう、整備が進んでいます。
ブライトでは、今後も耳の不自由な方々のニーズをお伺いしながら、情報保障を強化していきます。
★クイズの答え★
クイズ① 耳の不自由な人は、みんな「手話」で話す
こたえ① × 全員が手話で話すわけではなく、日本語を母語にしている人もいます
クイズ② 放送には「字幕」があれば、聞こえなくても十分だ
こたえ② × 手話が母語の人にとっては、手話で伝える必要があります
クイズ③ 電話ができない代わりに、大多数が「FAX」を使う
こたえ③ × 「FAX」をもっていない人が多くいます
投稿者:南條 岳 株式会社ブライト 企画課課長 ユニバーサルデザインコーディネーター。 埼玉に生まれ、東京、大阪、福岡、京都、神奈川などで幼少期を過ごす。子ども写真スタジオでのカメラマンを経て2013年ブライトへ入社。外部でライター、イラストレーターとしても活動し、「わかりやすい編集」を得意とする。『高校生クイズ』が好き。 |
みなさんも海外旅行へ行った際は、身振り、手振りでコミュニケーションを試みることありませんか?
手話ができなくても、コミュニケーションできる方法がたくさんあります!