BLOGブログ

当事者連載

2026.08.13 木

【当事者連載】ようこそ、ロービジョンの世界へ ~第4回 色覚多様性とファッション~

第4回のテーマは、ずばり「色」です。

私には、ロービジョンに加えて、アクロマトプシアという色覚障害があります。以前は「全色盲」と呼ばれていましたが、色が全くない「無色の世界」ではありません。私の場合は、無光彩色の白黒テレビの世界です。黒に近い濃い色、白に近い薄い色、グレーに近い中間色の3択のようなイメージです。学生時代の色覚テストでは、最初の一つしか見分けがつかない、そんな色の見え方です。

例えば、左(上)の画像は私がブルーのカットソーを着ていますが、私には右(下)の画像のようなグレーっぽいイメージに見えているのです。

画像:青いカットソーをきている芳賀さん画像:アクロマトプシアの見え方(シミュレーション)


▼カラー診断士の一言「色が見えなくても理論がわかれば理解できます!!」

私は若いころからファッションにとても興味がありました。「きれいになりたい」「自分らしく装いたい」と思うのは、古今東西自然なことです。しかし、無光彩色の世界の私一人ではどうすることもできず、誰かに見てもらって洋服やメイクグッズを買うという発想しか出てきませんでした。自分のファッションなのに、自分で選べない情けなさをいつも感じていました。

イメージ画像:売り場に並んでいる色とりどりのカットソー芳賀さんの見え方イメージ:売り場に並んでいる色とりどりのカットソー

転機は、2010年代に不意に訪れました。メーリングリストに「カラー診断士と骨格診断士の資格を持った講師による視覚障害者のための色の勉強会」というお知らせが掲載されていたのです。半信半疑でしたが、ことはファッションに関わることなので、ダメもとで参加申し込みをしました。勉強会の開口一番、講師がこう断言しました。

「眼で色が見えなくても、理論がわかれば色を理解できます。自分で色が選べるようになります。」

そんなことってあるの?この一言で、私は完全に度肝を抜かれました。さらに講義は続きます。
色とは、物体に当たってはね返る光であること、色の構成要素は原色、無光彩色、トーンの3つであること、これらの要素の組み合わせであること。

概念図:跳ね返った光を目で受け取っている図

本題のカラー診断のしかたは、肌の色が黄み寄りか、青み寄りかでグループ分けする、さらに似合うのがはっきりした色味か、やわらかい色味かで分けていくことを説明してくださいました。手作りの「触ってわかる教材」も用意してくださり、それらをみんなで触れながら勉強していくと、理論で頭が整理されていき、想像力がどんどん高まり、本当に色が見えてくるようでした。「理論がわかれば、眼で色が見えなくても理解できる」は本当だと体験した瞬間でした。

あとでカラー診断を受けてわかったのは、私の肌は青み寄りで、寒色系のやわらかい色味が似合うグループだということ。「誰にでも似合う無難な色」があるとは限らない、と理解した瞬間でもありました。

▼自分で選べる楽しさ

勉強会の受講以降は、「アクロマトプシアだから自分では色が選べない」という呪縛から、すっかり解き放たれました。自分が主体となって自由に洋服などを選んでいます。それを可能にしたのは、個人で受けたカラー診断と骨格診断で、自分に似合う色やデザイン、素材の傾向が理解できたからです。これまでに診断やファッションセミナーを受講した複数のスタイリストのメールマガジンに登録したり、ブログを参考にしたりして、旬の情報を得るようにしています。

イメージ画像:お店でアドバイスしてくれる店員さん

お店で買い物をするときには、店員さんに自分が視覚障害があることとカラー診断を受けたことを最初に伝えます。そうすることで多くの店員さんは、見えにくくても色のイメージや知識がある程度あるとわかってくださる様子です。
一度、ベージュのテーラードジャケットを買いに行ったことがあります。合わせたいパンツを実際にはいて出かけました。誰にでも似合うと言われるベージュですが、ブルーベースの私には、黄色系のベージュは似合わないので、ローズ系のベージュを探す必要がありました。ほしい色をカラー診断の通りに伝えたところ、店員さんは素早く在庫を確認してくださり、「今の時期のトレンドは黄色系のベージュです。もしかしたら、○○というお店にあるかもしれませんが、そこになければ時期を待ったほうがいいかもしれません。今お召しのパンツでしたら、グレージュという、グレーが入ったブルーベースにも似合うベージュやニュートラルなライトグレーという手もあります。」と、今のトレンド、別のおすすめの色といった広い視野でのアドバイスをしてくださいました。ここでも、専門家ってすごいなと思いました。

それまでは、「無難なベージュのジャケット」とぼんやりしたイメージを伝えるだけで、後は店員さんにお任せという買い物のしかたでした。そのような買い物のしかただと、上にあるような具体的で多角的なアドバイスをいただくことは難しいと思います。

イメージ画像:ネットショッピングを楽しんでいる女性

このことは、ネットショッピングでも同じです。私は、AIを自分の目の代わりに活用しながら、ネットで洋服を選んでいます。いいなと思った商品のページで、ショートカットキー操作でAIを開きます。自分が似合う色グループと骨格を入力し、このページの洋服が私に合うかどうか?合う色があるかどうかを質問します。さらに詳しく知りたいときには、合わせたい色や用途などを追加で質問しながら、候補を絞っていきます。

ネットショッピングでAIの便利さを感じるのは、デザインを詳しく質問できることです。全体のかたちは何となく見えていても、素材の感じ、袖や襟、裾がどれぐらい広がっているのかなどの細かいところは、自分で確認することが難しい私です。このデザインはいい感じだと思って質問したら、私の骨格には似合わないと回答されることがよくあります。理由のほとんどが、上にあげた細かなデザインなのです。おかげで、箪笥の肥やしとなる服がかなり減りました。

▼インクルージョン(包摂)のための国際規格「色弱者とロービジョン者のための色の組み合わせ」

私は、アクセシブルデザインの国際規格や国内JIS規格を検討する委員会委員を務めています。アクセシブルデザインは、おおむねユニバーサルデザインと同じです。日本から提案された国際規格はたくさんありますが、その一つが「色の組み合わせ」の規格。これはアクセシブルデザインという考え方から、「若齢者」「高齢者」「色弱者とロービジョン者」の3シリーズとなっています。

2000年代後半だったと記憶していますが、委員会でご一緒している産業総合技術研究所(以下、産総研)の研究者から、色弱者とロービジョン者の色の組み合わせ国際規格をつくるので、ロービジョンの実験協力者を探していると伺いました。日本を代表する産業技術の研究者が行う実験なのだから、何かが変わるかもしれないと思い、周りのロービジョンの友人たちに声をかけまくりました。

産総研:みんなが「色」から情報を得られる社会に

「私たちみんなバラバラな見え方なのに、本当にそんな規格つくれるの?」
「産総研からの依頼だよ。」
「行けば、何かが見えてくるかもしれないね。じゃ、いってみようか!」

ダメもとかもしれないけれど、何かが変わるかもしれないと、多くのロービジョンの友人が、筑波まで足を運びました。

その実験結果が、シリーズの一つ「色弱者とロービジョン者のための色の組み合わせ規格」として、2025年10月に発行されたのです。一人一人まったく見え方が違うロービジョンの人たちの基本色の見え方の傾向が、ちゃんと可視化されました。私たちは、ひとりひとり見え方が異なっていても、科学的な研究によって一定の傾向を見いだせることが示されました。最も重要なことは、科学的実験によって、色覚に特性のある人も、ない人も見分けやすい色の組み合わせが、データによって示されたことです。産業界は、インクルージョン(包摂)の道を選んだのだと感じました。
色の組み合わせ国際規格を通して科学的な研究やデータが、インクルージョン(包摂)のために生かされることで、社会の景色は大きく変わるのだということが、身にしみてわかりました。
また、「色が見えていないのだから自分では色が選べない」という私の思い込みを軽やかに解いてくださったカラー診断士の先生は、科学的に、客観的に、専門家となるべく勉強しているからこそなせる業なのだと思います。ご自分の専門性をインクルージョンに役立て、私たちの世界を大きく広げてくださった真の専門家に、心から感謝します。

産総研マガジンウェブ版:ロービジョン者と色弱者のための色の組み合わせ国際規格

 

★こぼれ話★


色覚障害の歴史 >

色覚障害が初めて科学的に認識されたのは、18世紀のヨーロッパ。ジョン・ドルトンが自分自身の色覚を観察し、 赤と緑の識別が困難な状態を初めて科学的に記述したことに始まります。1875年にスウェーデンで起きた列車事故をきっかけに、鉄道員の色覚と信号識別の関係が注目され、色覚検査の必要性が広く議論されるようになりました。

以後、鉄道・船舶・航空で色覚検査が義務化され、その基準を満たさない人はこれらの仕事に従事できなくなりました。19世紀後半から20世紀前半にかけては、色覚の違いに配慮した環境を整えるという考え方はほとんどありませんでした。

日本も例外ではありません。20世紀初め、日本人がつくった色覚検査表が世界で広く使われるようになりました。日本では学校での色覚検査が長年行われてきましたが、2003年度から学校健康診断の必須項目ではなくなりました。

かつては、色覚の違いによって進学や就職などの選択肢が制限されることがありました。しかし、2000年代に入ると「色覚多様性」という考え方も広がり、こうした制限も徐々に見直されてきました。現在では、人の見え方を「正常/異常」と単純に分けるのではなく、多様な見え方を前提に、情報や環境を整えていくという考え方が広がっています。

この歴史を振り返ると、私が学生だったころの教育を思い出します。当時の私は、「ロービジョンの見え方は一人ひとり異なるため、社会がそれぞれに合わせることは難しい。自分が社会に合わせていく」という考え方のもとで教育を受けていました。だからこそ多様な見え方を研究し、そこから一定の傾向を見いだして、社会の側の環境や仕組みを変えていこうとする現在の動きには、大きな変化を感じます。
視覚障害のある人への支援は以前から各分野で行われていましたが、医療、教育、福祉などが連携して「ロービジョンケア」に取り組む動きも広がっていきました。2000年には、こうした分野を横断して研究・実践する「日本ロービジョン学会」が設立されています。


▼当事者連載:バックナンバー
第1回 〜ロービジョンって?情報へのアクセスあれこれ~
第2回 〜ロービジョン夫婦のスペイン旅~
第3回 〜旅先での自動化悲喜交交~