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当事者連載
2026.04.21 火
【当事者連載】ようこそ、ロービジョンの世界へ ~第3回 旅先での自動化悲喜交交~
第3回のコラムは、「旅先での自動化」がテーマです。
第2回のコラムで、ロービジョン夫婦のスペイン二人旅の様子をご紹介しました。すべて自分達で旅程を立て、手配をして出かけるので、旅先でも出たとこ勝負で、何でも自分達で解決するのが私たち流。大概のことには驚きませんが、コロナ禍以降、スペインでも多用されるようになったタッチパネル主導の自動化には、かなり悪戦苦闘しました。
アクセシブル社会研究会 研究員 芳賀優子
第1回 ロービジョンって?情報へのアクセスあれこれ~
第2回 ロービジョン夫婦のスペイン旅~
出入国審査も国内線搭乗手続きも自動化が基本
スペインでは、8歳以上であれば、基本は自動出入国機を利用するルールです。出入国機は日本語を含めた多言語対応ですが、操作はタッチパネル、本人確認はカメラ認証です。それらができない場合には、自分から必要な配慮とその理由を、簡潔に係員に伝えるのが社会ルールです。ただし、すべての係員が対応に慣れているとは限らないことを、しっかりと認識しておかなければなりません。
スペイン語を話す視覚障害の東洋人を見て、すっかり舞い上がってしまった係員は、「カメラが見えないので係員のいる窓口に案内してほしい」と説明しても、「日本語で手続きできる」と譲りません。「仰ることは理解できますが、眼の見えない私たちがどうやってカメラに目を合わせたらいいか、その方法を教えてください。」と「引いて押す交渉術」で無事窓口で手続きをして入国することができました。
到着の翌朝、利用する航空会社のコンピューターシステムが、海外からサイバー攻撃を受けてダウンしているというニュースが、耳に飛び込んできました。この日は、国内線でガリシアまで移動する日です。すぐに夫に伝え、搭乗券とパスポートをセットにして、安全でかつ、取り出しやすい場所に入れ替えます。普段は航空会社のチェックインカウンターでパスポートと搭乗券を出しますが、何かトラブルがあると空港の入り口でそれらを厳しくチェックされるのです。この下準備のおかげで、ほとんど待つことなく空港に入ることができました。海外に滞在しているときは、どんな方法でもいいので、現地のニュースをチェックしておくことは、自分たちの身を守る意味でとても重要です。私は、朝と夕方のテレビニュースを欠かさず見ています。

体の近くで持ち歩くと、盗難にあいづらいです
国内線の搭乗手続きも基本的に自動チェックイン機で行います。係員に確認すると、このカウンターで間違いないとのこと。進んでいくと、すべてが機械であることが分かりました。別の係員に事情を伝え、係員がいるカウンターまでの案内をお願いしました。私たちを見て素早く状況を理解した係員の対応は、とてもスムーズでした。
空港の保安検査場はプロフェッショナル
予想通り、保安検査場は大混雑、大混乱でした。しかし、スペインではこういうことはよくあることなので、誰もカリカリしていません。航空会社のシステムダウンの影響で、長蛇の列で待たされることはありますが、どの係員の指示も的確で素早いのです。
係員1「かなり混んでいるのですが、専用レーンを使いますか?それとも、一般のレーンを使いますか?」
芳賀「一般のレーンで問題ないと思います。」
係員1「今手で触れているのが荷物を入れる箱です。別の係員が声をかけるまで、カウンターに沿って進んでください。」
係員2「ここがセキュリティゲートです。ひとりで通れますか?」
芳賀「一回だけ、ゲートを触ることができれば、通れます。」
係員2「ボディチェックは問題なく終了しました。またこのカウンターに沿って進んでください。カウンターの端まで行ったら、そこで自分の荷物を受け取ってください。係員がいますから、必要な助けをご遠慮なく言ってください。」
一般レーンの係員であっても、そこ、あちらなどの指示語を使わず、私が何をすればいいのかと今の状況を、必ずセットで伝えてくれます。一度も「少々お待ちください。」「上司を呼んでまいります。」を言われたことはありません。日本と同じように、国からの委託の事業者が行っていますが、空港の保安を担当する係員のプロフェッショナルなきびきびとした応対は、本当に「任せて安心」そのものです。
長距離の列車やバスのオンライン手続きは100点のアクセシビリティ
スペインの鉄道網のほとんどを、スペイン国鉄がカバーしています。

鉄道もバスも、国際便がたくさんあります。このような長距離の特急や急行のチケットは、日本にいながら、オンラインで予約、座席指定、購入が可能です。私はウェブサイトを音声読み上げアプリと、画面を白黒反転にした設定で利用しています。言葉の問題はありますが、サイトの構造やつくりで不便を感じることはありませんでした。
2010年ごろから、電子チケットは、印刷するかスマートホンに入れて提示するかのどちらかを選べます。スマートホンに入れておけば、それを改札で提示するだけで、紙のチケットなしで電車やバスに乗れます。電子チケットのどこをタップするのかわからない時は、音声読み上げアプリをオフにした状態で、画面を係員に見せて操作をお願いすることもできます。日本で自分が慣れているパソコンでチケット購入ができ、それをスマートホンに転送するだけで、ひとりでスペインの電車やバスに乗れる自由は、何物にも代えがたい魅力です。

意外な落とし穴~鉄道のマドリッド近郊路線とローカルバス
ガリシアから首都のマドリッドに到着すると、事態が一変しました。特急列車でマドリッドに着いて、近郊線の片道切符の買い方を駅員に尋ねました。アテンドが必要ならお客様サービスの窓口、券売機の操作なら駅員に手助けを頼めばよいとのことです。バスについては、サイトを調べても現金で乗車できるかどうかの情報を見つけられなかったので、利用はあきらめざるを得ませんでした。
切符を手にしても、安心はできません。近郊線の切符にはQRコードのような2次元コードが印刷されています。それを、改札機に内蔵されているカメラに、読み取らせて通る仕組みです。裏表を間違えず、2次元コードの部分をカメラの場所にかざさないと、改札機のドアが開かない仕組みですが、肝心の裏表を知る手掛かりとなる切り欠きがついていたり、いなかったりします。

これもスペインらしいと言えばそうなのですが、ここまで来たら当たって砕けるのみです。日本と同じ場所に適当にタッチしていたら
「ご婦人、そこはタッチする場所ではありません。手を取りますね。ここです。走って!走って!」
と駅員さん。慌てて走り出したら、おでこに何かがガツンとあたりました。
「もう一度やり直しですね。」
158センチの私の身長をはるかに超えた高さ、それがスペイン国鉄の改札扉でした。
スペインでは今、国鉄の線路や駅の大改修が行われています。その状況は刻々と変わり、現地の住民でも右往左往する状況です。日本よりもかなりスローペースなのに加えて、表示はあるものの窓口やトイレなどの設備や通路などは、予告なく場所が変わったり、普段とは全く違うルートとなったりします。小さな駅では、窓口に人が配置されなくなることもあります。サイトの情報が、これに追いついていない場合も少なくありません。出たとこ勝負で、人に聞きまくって対処しました。
買い物、ホテルはサービスと自動化の絶妙なバランス
スーパーやデパ地下での買い物は、クレジットカードのタッチ決済が可能だったので、ほとんど困ることはありませんでした。商品によって税率が変わる、付加価値税の軽減税率制度を導入しています。標準税率は21%ですが、基本食材に指定された水、パン、ワインなどは10%の軽減税率。低所得であっても最低限の生活ができるように、価格設定や税率などを通して、国がきめ細かに配慮していることが、スーパーでの買い物だけでよくわかります。包装資材などが地球環境に配慮してある商品は価格が安く、個包装やプラスチック容器のものは価格が高く設定されているのも面白いなと思いました。
ただ、量り売りのお総菜売り場では、タッチパネルの機械で注文の順番を取る必要があります。その仕組みを知らず、店員さんを呼んでも対応してもらえず困っていたら、買い物客が助け船を出してくれました。
「この機械でカードを取るの。私が取ってあげるから、このカードを持って、店員さんを呼んでね」
一度経験すれば、次からはスムーズです。店員さんに事情を伝えて、カードを取ってもらうことができました。困ると、どこからともなく助け船が出てくるスペインは、まるで魔法のランプのようです。
手ごわいのは、日本とは全く違うレジの仕組みです。レジの台はベルトコンベアーのようになっています。そこに買い物かごから買ったものを、自分でどんどん出して並べていきます。全部出し終わったら、備え付けてある棒をおきます。店員さんは、ベルトコンベアーを動かして、レジを通していきます。それを、自分でエコバッグに詰めるのです。ものすごく忙しい作業になるので、二人で分担しています。でも、誰も急かしたり、イライラした態度を見せることはありません。
「エコバックに入れたら支払するので、少し待ってね。」
「もちろんですよ。」
無言の圧力とは無縁のこの雰囲気に、ここには間違いなく私の居場所があると思えるのです。ホテルは、予約時におおよその到着時刻と、2名とも視覚障害と伝えてあったためか、チェックインやチェックアウト時に、フロントが無人だったことはありませんでした。
「このデスクを触ってください。フロントに人がいないことがあるので、その時は、このフロントデスクの一番右端にあるこのベルのボタンを押してください。」
私たちが困らないように、必要なことを的確に教えてくれます。
朝食のビュッフェでは、障害のあるなしに関係なく、ドリンクマシーンの使い方で戸惑う人が多いようです。スペインでは、コーヒーだけでも選択肢がものすごく多く、カフェイン入りかカフェインレスかに始まり、それぞれ4つの選択肢があります。機械は多言語表記なので、どれが何語だかわからなくなってしまうことがよくあります。私たちもレストランの係員に操作をしてもらい、テーブルまでコーヒーを運んでもらいました。2日目には、もうすっかり顔なじみになります。
係員が気さくに、しかも的確に説明や手助けをしてくれる「特別」を感じさせないプロのサービス、それがスペインのホテルです。

部屋番号が触ってわかるように、しかも素敵にデザインされていることも多く、そんなときはとても嬉しくなります。建物や電気製品が多少古くても、私はそれほど気になりませんでした。自分でできることは自分でやって、お洒落なデザインの中で「特別」を感じることなく滞在を楽しめることのほうが、私にははるかに大切です。
スペインを旅してわかったことがあります。それは、この社会には「必要な人が合理的配慮を自分から申し出るのがルール」だという、ゆるぎない暗黙の了解があること。最先端の自動化の技術に感動することもなければ、群を抜いたすばらしい接客に感銘を受けることもありませんでした。旅する私たちも含めて、すべてが「そこそこ」なのです。でも、最終的には何とかなってしまう、「不思議で絶妙なバランス」があります。それは、事前の打ち合わせもマニュアルもどこ吹く風、その場にいる人たちと、その場にある仕組みや技術で、その場で臨機応変に解決策を瞬時に出してしまう「しなやかな感性」だと思います。
今回の旅行中ずっと、合理的配慮にも、解決策にも、まったく「特別」を要求されず、当時者として巻き込まれ続けて、変幻自在に一緒に解決してしまう『そこそこの輪』の一員であり続けたことは、私たちの誇りです。
スペイン旅行の後編は、タッチパネルなど自動化に戸惑いながらも乗り越えていく旅の記録。芳賀さんたちが触れたのは、完璧を求めず、互いに巻き込み・巻き込まれる「しなやかな感性」と「そこそこの輪」でした。便利さと不便さが混ざり合う中で見えてくるのは、仕組みだけでは補えない人の力にふと気づかされる旅行記でした。
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