障害について知る 2021年2月27日

コロナ禍のユニバーサルデザインを考える ~先天性弱視・芳賀氏のインタビューから~

昨今のコロナ禍で視覚障害のある方々の生活はどのように変化したのでしょうか。
今回はブライトのアドバイザーであり、生まれつき弱視でもある芳賀優子さんにお話を伺いました。

 

芳賀優子さんの顔写真 芳賀優子(はが ゆうこ)氏 プロフィール

様々な活動に取り組み“肩書がない”という芳賀さん。高校まで盲学校で学び、大学でスペイン語を専攻。ヤマト運輸に22年勤務ののち、NHKラジオ第二放送の視覚障害者のための番組司会等を務める。ユニバーサルデザインやバリアフリーに関する本、絵本の制作など様々な活動に携わる。

1 “触る”ができない? 3密回避の難しさ

――昨年から続くコロナ禍で、芳賀さんや視覚障害者の方はどのようにお過ごしですか。困っていることや、逆に良くなった点などがあればお聞かせいただけますか?

芳賀:はい。感染予防のために政府から3密を回避するよう要請がありましたよね。これは、視覚障害者には非常に酷な要求でした。密閉、密集、密接を避けるということですが、見えない、見えにくい視覚障害者にはこれが辛いんです。見てわからないから触るのですが、それができないというのが。

――視覚障害のある方は、体に触れて誘導してもらったり手指の感触を頼りにするなど、人や物への接触が必要な場面が多いですよね。

芳賀:買い物も1人で行くことを要請されましたよね。私の場合は1人で歩くための訓練を受けていて多少見えるので大丈夫ではあります。だけど、そうじゃない人もいます。政府から要請が出たためヘルパーさんも買い物や通院での利用を断られるということがあり、けっこう混乱したようです。

――なるほど。

芳賀:それと買い物に関しては、私たち視覚障害者は自分である程度行動ができる場合にも、見えない、見えにくい部分を店員さんのサービスに頼るところが大きかったのですが…それが難しくなった部分はあります。たとえば一緒について買い物をするという買い物アテンドサービスを断られるケースがあったり。またコロナ対策で、“声の代わりに笑顔でご挨拶”とするスーパーもあったのですが…。笑顔でご挨拶をしてくださっても、笑顔がどこかわからないんです。店員さんはどこでしょうか、となってしまいます。

イメージ画像:手をつなぐ人々とクエスチョンマーク

――視覚障害のある方々は本当に声が頼りですね。

 

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが2020年4月に行ったアンケートによると、回答した視覚障害者のうち6割以上が買い物等の生活面で不便を感じ、援助の依頼をためらうようになったり、視覚に頼る掲示物等から情報が得られずにいることもわかりました。レジに貼られたアクリル板やビニール、換気のために開放された扉、間隔をあけて並ぶ列など、これまでと異なる様々な状況が障害者の生活を困難にしています。

2 スーパーの事例から考える“利用者目線”

芳賀:うちの近所のスーパーは、ある時間帯だけ障害者・高齢者専用レジを設けていました。けれどそれは、見えるからそこが専用レジだとわかるんですよね。どこでしょうと探すことに時間がかかってしまいそうで、私は使っていませんでした。良かれと思っての配慮であることは重々よくわかるのですが、リサーチ不足、マーケティング不足という気もします。

――せっかくの取り組みがうまく生かされていないのはもったいないことですね。

芳賀:私がすごいな、と思ったのがある大型スーパー。本社がアメリカの会社なのですが、全店、毎週火曜日と金曜日の午前8時から9時45分は障害者や高齢者などを対象とした特別営業を行うということでした。

――以前、ニュースにもなっていました。優先的に買い物できる時間帯は混雑が緩和され、カートを押しやすかったり店員さんのサポートも受けやすいですね。

芳賀:会社側の業務フローとしても、一般のお客さんの中に、サポートの必要な方が混じるというオペレーションはけっこう大変ですよね。だけどその時間はそういう方しか来ません、となったら、その方が楽ではないでしょうか。この時間を接客の研修に使っているという話も聞き、これは賢いなと私は思いました。平常時ではないことを考えると、とても合理的なオペレーションではないかと思います。

イメージ画像:消毒スプレーとショッピングカート

 

3 コロナ禍でできるサポートはどんなこと?

――ソーシャルディスタンスやマスクの着用などにより、視覚の代わりに頼りにしてきた触覚や嗅覚などからの情報が得にくくなったという話もききます。芳賀さんの周囲はどうですか。

芳賀:コロナ禍で、一般市民の方が声をかけてくれる機会がすごく減ってしまったというのは多く聞きます。昨年7月、JR阿佐ヶ谷駅で視覚障害のある方がホームから転落して亡くなられました。マッサージで生計を立てていた方でボランティアに行かれた帰りだったそうですが、ホームには人も少なかったようです。

――本当に悲しいニュースでした。事故の原因は不明のようですが、コロナ禍で駅の利用者が少なかった可能性もありますし、最近は他人に声をかけづらい雰囲気もあるように思います。

芳賀:いつもヘルパーさんと一緒に歩くという人ではなく、訓練を受け自立して働いたりしているような方々が一番困っているかもしれません。自分でできるんだけど、ちょっとしたところを一般市民の方の手助けに頼っていたから。サポートしてもらう機会が減ってしまうとなると。

――声かけがあるのとないのでは全然違いますね。

芳賀:以前、カバンのストラップを突然、無言で引っ張られたことがありました。「なんですか?」と言ったのですが、ずっと無言で引っ張られ続けました。私の立っていた場所が邪魔になるところだったのかなと推察したのですが…。無言で袖口を引っ張られたり、棒のようなもので突かれたという人もいます。

―それは怖いですよね。もしかすると、手助けしたいと思っても、お互いに感染させてしまったら…と躊躇したり、言葉をかけられないケースもあるのかもしれません。

芳賀:向かい合って飛沫が飛ぶのは良くないと思いますが、隣に来て「すいません、少し邪魔になっているので右に三歩くらい行ってもらえませんか」など、ひとこと言って頂けると助かると思います。逆にコロナ禍でも「私もマスクしてるのでご案内しますよ、隣行っていいですか」、と言ってくださる方もいました。そういう風にしてくれる方達がいたことは本当に救われました。

――必要な感染対策をしたうえで、「お困りですか?」と聞いてみたり、声で誘導することはできますね。

芳賀:いつも利用するお店の店員さんと相談し、入口の消毒液はこっち側にありますと教えてもらったり、一番空いている時間帯を聞いてサポートしてもらったりしました。店員さんも声かけは極力控えることになっていると思うのですが、私の傍を通った時だけ「いらっしゃいませ」とか「いつもどうも」って、声をかけてくれて。

――なるほど。ちょっとした言葉でも心強いですね。

芳賀:おつりの受け渡しなども最初はトレーでやっていたのですが、「私も手袋してるし、芳賀さんもちゃんと手指消毒してくださっているからいいですよ」と言ってくださったり。それがすごくありがたかったです。お互いに相談して、納得した上で対応していただけたのは本当にありがたかったですね。

――感染対策はもちろん大切ですが、このような時だからこそコミュニケーションを忘れずに、互いに良い方法を見つけていきたいですね。

 

表紙:視覚に障害のある方が新型コロナウイルスに感染し入院したら  参考資料:医療従事者と支援スタッフのためのサポートガイド
 「視覚に障害のある方が新型コロナウイルスに感染し入院したら
 制作:国立がん研究センターがん対策情報センター視覚障害者が新型コロナウイルスに感染して、入院または宿泊療養をする場合に、医療従事者や支援スタッフはどのように対応したらよいのか?などの具体的な方法が掲載されています。

 

4 “リモート”に新たな可能性

PC画面:ZOOMでの懇親会

――不便や不安を感じる生活だと思いますが、逆に良い変化などはあったのでしょうか。

芳賀:コロナ禍でも良かったと感じるのはやはりテレワーク。視覚障害の方の場合、もともとスカイプを使う方は多かったんです。視覚障害者は空気を読むとか視線を読む、というのがわかりません。見えないのでビジュアル要素に左右されないんです。つまり会議の発言内容にだけ注目するので、同じ会議ならリモートのほうが全然やりやすいです。リモート会議は一般の会議と比べて言葉による進行が主になるので私たちにはありがたい。それはすごく感じているところですね。

―なるほど。外出しなくて良いことで通勤や移動の負担は減りましたか?

芳賀:リモートの機会が増えてから、東京から離れたところに住む視覚障害の方は本当にありがたいと仰っていますね。これまで東京や大阪へ行かないと、色々な催しやイベントに行けなかったんです。遠方へ移動する時、自分で行けない場合には福祉サービスのガイドヘルパーなどを手配する必要がありますが、自治体によってルールが違ったりします。例えば地方から東京へ行く場合、ヘルパーの利用は県内のみで、都内では現地のヘルパーを頼むように言われたり。手続きも大変で難しく、本来の目的じゃない部分でとてもハードルが高いです。リモートの場合はそれがなく遠隔で参加できるので、すごい可能性があると思っています。

―リモートによって仕事や活動の幅が広がるということですね。コロナによる生活様式の変化はマイナスなことが多いのではと思っていましたが、良い部分もあったのですね。

 

投稿者:守﨑麻衣 投稿者:守﨑麻衣
フリーライター。文化芸術業界で映画・音楽・伝統芸能等の事業や施設運営、広報に携わり、ユニバーサルデザインにも高く関心を寄せる。学生時代は箱根駅伝等の取材に奔走。学芸員、教員免許、色彩検定2級、16ミリ映写機操作技術認定取得。

 

ここがUD

日常生活の具体的なシーンを例にわかりやすくお伝えくださった芳賀さん。
お話から見えたのはコロナ禍の生活様式の変化により視覚障害者の方が困難に感じていることや、相手の立場から考えることの大切さ。リモートの機会という新たな希望も窺えました。障害のある方と繋がり意見を交わすことはユニバーサルデザインを考える時にも欠かせないこと。新しい生活に多くの人が戸惑いや不安を感じながら模索を続ける今だからこそ、誰もが快適に過ごせる方法をより深く、考えていきたいですね。