【前編】ワクワクする新たな地域モデルを創り出していくプロジェクト「カモチャレ観音寺1stコンベンション」開催
2024年6月8日、「カモチャレ観音寺1stコンベンション」がハイスタッフホールとオンラインで開催されました。「カモチャレ」とは、「新しい未来ができるカモ!」にみんなでチャレンジしていく、「ワクワクする新たな地域モデル」を創り出していくプロジェクト。
協力:カモチャレ製作委員会とカモチャレ観音寺実行委員会
●3つのワクワクからスタート
この日は、「新しい未来の香川県観音寺」を創ろうと、観音寺市長の佐伯明浩(さえきあきひろ)氏をはじめ、観音寺市教育長の十河聖司(そごうせいじ)氏、衆議院議員の大野敬太郎(おおのけいたろう)氏、香川県議会議員の城本宏(しろもとひろし)氏など多くの人が集結。
カモチャレ製作委員会の濱岡英雄委員長がファシリテーターを務め、「障がい」「教育」「食」の3つの分野で活躍する方々が登壇しました。
はじめに、濱岡氏が手話で挨拶。「カモチャレ」の想いが熱く語られました。
濱岡氏が思い描く「チャレンジ」とは、簡単には達成できない難しい目標に向かうことだといいます。「トライ」とは異なり、逃したら二度と訪れないかもしれない大切な機会に挑戦することを意味するのだそう。
濱岡氏自身の2つのチャレンジも紹介。1つは、障がい者就労の課題解決に取り組む百田牧人さんのプレゼンがきっかけ。社会にはこんなに課題があるのかと50歳にして知り、行動を起こした。もう1つは、アニメ「結城友奈は勇者である」のファンとして初めて訪れた観音寺で、「観音寺をより良くしていこう」というチャレンジ。
カモチャレを始めるには、まず「できるかも」と決めること。そして、自分だけで考えるのではなく、人と話をすることが大切だといいます。
また、「障がい者を支援する」だけではイノベーションは生まれないと述べます。ライターやウォシュレットのように障がい者から生まれた発明品が今や社会のインフラとなっている例を挙げ、多様性がイノベーションの源泉であることを示しました。障がいの有無、年齢、性別、国籍などに関わらず共に生きる社会を作ること、そして社会をよりよくしていくイノベーションを起こしましょうと締めくくりました。
●1つめのワクワク「障がい」
続いて、「障がい」をテーマに4名の方が登壇しました。トップバッターは、大分県別府市社会福祉法人太陽の家 理事長の山下達夫氏。
太陽の家は、1965年に中村豊医師によって設立された障がい者支援施設。「No Charity, but a Chance !(保護より機会を!)」という理念のもと、パラスポーツ推進、地域・国際貢献、障がい者の社会参加とサポートを3本柱で活動しています。
別府市内の太陽の家は敷地面積が東京ドームに匹敵するほど広大で、協力企業も多数あります。共同出資会社の社員を合わせると、障がいのある方1700名を含む1800名が働いており、ウクライナの聴覚障がい者2名も受け入れて別府市民として共に暮らしています。
山下氏は、「太陽の家には年間8000人が見学に来られます。これは観光面で別府市に大きく貢献している」と話します。
別府市では、官民一体となってユニバーサルデザインを推進。別府駅前は、車道と歩道の境目に段差がなく、フラットになっています。また、パチンコ屋に車椅子用のトイレがあったり、競輪場には車椅子の高さに合わせた券売機があったりと、至るところにバリアフリー設備が整っており、地域ぐるみで障がい者が暮らしやすいまちづくりを進めています。
山下氏は、共生社会の実現には「コミュニケーション」が何より大切だといいます。「障がい者を理解し、街に必要なものをみんな考えることが、観光振興にも繋がる」とし、「コミュニケーションが人脈を生み、新しい発想を生むきっかけになる」と力強く締めくくりました。
続いて、オムロン太陽株式会社 代表取締役社長の辻潤一郎氏より、同社の障がい者雇用の取り組みについてお話がありました。
オムロン太陽は、52年前に日本で初めての障がい者福祉工場として設立されました。現在は知的障がい、精神障がい、発達障がいなど様々な障がいのある方々が健常者と一緒に働いており、障がい者の割合は45.8%(雇用率77.8%)。健常者との割合は半々です。
電子部品メーカーであり、品質・コスト・納期などで他社と競争する同社。「障がい者だから」と軽作業を割り振るなどの特別扱いはせず、給料や査定も健常者と変わらないといいます。障がいの特性に合わせて設備や治具を工夫することで、誰もが活躍できる職場づくりを目指しています。
辻氏は、多くの企業が障がい者雇用に二の足を踏む理由として、「コストや専門知識不足への不安」を挙げました。それを踏まえ同社では、障がい者雇用を「コスト」ではなく「投資」ととらえているといいます。
最後に辻氏は、50年間で培ったノウハウを他社にも提供し、障がい者雇用を広げることが「より良い社会を作る」という同社の理念にも合致すると話しました。
次に、TomoWork CEOの百田牧人氏より、シンガポールにおける障がい者就労支援の取り組みが紹介されました。
百田氏は、障がい者就労の課題に取り組むため、2021年10月にシンガポールでNPO法人TomoWorkを立ち上げました。15人の障がい者との小さなトライアルからスタートしましたが、これまでに300名以上の障がい者に就労プログラムを提供し、600人のボランティアと連携しながら、デジタル時代にふさわしい障がい者の新しい働き方の実現を目指しています。
現在はシンガポールの全ての工科学校や大学など9校と提携し、特別支援教育が必要な学生への就労移行プログラムを提供。企業パートナーは60社を超え、今ではGoogle、Bloomberg、ユニリーバなど、世界的な多国籍企業が、インターンシップの機会提供やメンタリングで連携しています。
プログラム修了後6カ月以内の就職率は80%に上り、単純作業だけでなく、スキルを活かしてGoogleに採用される事例も生まれているそうです。
障がい者の就労支援には、企業、学校、政府などの多様な関係者同士が協力し合い、共存共栄する「エコシステム」の構築が不可欠だと話します。「共感を呼べるビジョンを示す」「利害関係者の懸念に寄り添う」「パートナーシップを広げるプラットフォームを作る」など、多くの関係者を巻き込むための具体的なノウハウに言及。
最後に百田氏は、障がいのある人たちにも「失敗を恐れるな。チャレンジして、失敗から学んで次につなげよう」と語りかけていると述べ、「1歩を踏み出し、行動する勇気が新しい世界を作るカモ」と力強く話しました。
最後に社会福祉法人ラーフ 理事長の毛利公一氏より、障がい者支援への熱い思いが語られました。
ラーフでは現在5つの拠点で、障がい者の地域生活と就労を支援し、「選ぶことができる」を大切にしているといいます。接客、製造、農作業など、一人ひとりの希望に応じた仕事を選択でき、少しずつステップアップしながら一般就労につなげる仕組みづくりを進めているとのことです。
また、「楽しい」をキーワードに、福祉関連のユニークなイベントも数多く手がけてきました。障がいの有無に関わらず、みんなが一緒に楽しめることを大切にしているそうです。
毛利氏の目標は、障がい者を町中のいたるところで当たり前に目にする「共生社会」を作ること。別府市やアメリカのように、障がい者がレストランで食事をしていたり、買い物をしていたりする姿が観音寺でも日常的な光景になることを目指しています。
「私たちの目線が変われば、世界が変わるカモ」というのが毛利氏の信念です。障がいのある人もない人も、「同じ場所で同じように〇〇する場」を、みんなで作っていきたいと訴えました。
休憩をはさみ、一般社団法人ろう塾代表の吉田麻莉氏が登壇。吉田氏は生まれつき聴覚に障がいがあり、手話を使ってコミュニケーションをとっています。団体の目的は、次世代のろう者が手話という自分たちの言語を活用し、社会で100%の力を発揮できるようサポートすること。吉田氏はこれを「カモチャレ」と表現します。
「地方では障がいがあるために就職できず、大阪や東京に出ていく人が多い」と指摘。もし団体の拠点が香川県や観音寺にあれば、地元でもっと活躍できるのではないかと話しました。
また、会場の参加者に「ありがとう」と「カモチャレ」の手話を実演。「カモ」は夢、「チャレ」はチャレンジを手話で表しており、団体で相談して決めたと笑顔を見せました。これは濱岡委員長から「カモチャレの手話を考えてほしい」という依頼があったからだそうで、濱岡委員長も喜んでいました。
●別府市の取り組みから学ぶ観音寺市の未来
続いて濱岡委員長の進行のもと、パネルディスカッションが行われました。テーマは「別府市の取り組みから学ぶ観音寺市の未来」。登壇者は、社会福祉法人太陽の家理事長の山下達夫氏、オムロン太陽株式会社代表取締役社長の辻潤一郎氏、NPO法人ラーフ理事長の毛利公一氏の3名です。
「別府市を参考に観音寺市で何ができるか」「それを実現するために何が大事か」という2点に絞ってディスカッションを進めました。
山下氏は、「別府市の人口11万2000人のうち、障がい者は約1割と言われています」と前置きし、「障がいのある人たちがどんどん町に出て行ったことで、自然とバリアフリーの街になった」と説明しました。
また、うどんの町・観音寺市ならではの企画として「世界うどん絵画展」というユニークなアイデアを提案。「食べるだけじゃなく、うどんでアートをつくるとか。とにかく失敗してもいいから様々なことにチャレンジして、『観音寺市にまた来たい』と思ってくれるリピーターを増やすことが大切」と述べました。
続いて辻氏は、別府市の事例を紹介しました。
多くの飲食店や店舗では、コストや場所の問題から、障がい者用の多目的トイレの設置をためらう傾向にあります。「投資対効果が合わない」という発想になりがちだと辻氏は指摘します。
しかし、忘年会や宴会の際、車椅子利用者が1人でもいれば、その人が利用できるトイレがあるかどうかが店選びの大前提に。「つまり障がい者を招くことは、家族や友人など、周囲の健常者も一緒に呼び込むことに繋がる」と話します。障がい者用トイレは「障がい者だけのためのもの」という狭い捉え方ではなく、誰もが利用しやすい「みんなのトイレ」という発想が重要なのだとの主張。店舗経営者には「障がい者も含めた、より広い経済圏の獲得」という視点を持ってほしいと訴えました。
濱岡氏は、「日本の障がい者数は約1200万人で、発達障がいも含めると国民の10人に1人が障がいを持っている」とし、「障がい者の親族まで含めると3000万人にのぼり、障がい者が移動する時は周囲の人も一緒に動くため、経済効果は大きい」と話します。
また、「観音寺市のトイレにはまだまだ課題が残る」と指摘し、「別府市は、信号の押しボタン一つでも違うんですよ」と切り出しました。「車椅子の方用のボタンを押したら2秒で信号が変わる」「指の不自由な人でも押せるよう軽い力でも反応する」などの工夫がなされていることを紹介しました。
NPO法人ラーフの毛利氏は、観音寺市の課題として、観音寺駅のバリアフリーが不足している点、トイレの少なさや不潔さについて言及。一方で、重度訪問介護の対象拡大を市に要望したところ、わずか2人の声でも市が迅速に動き、3カ月で制度化したエピソードを紹介。観音寺市の障がい者支援への前向きな姿勢を評価しました。
人気アニメ「結城友奈は勇者である」の聖地としても知られる観音寺市。毛利氏は、こうしたコンテンツとバリアフリーを組み合わせることで、障がい者だけでなく健常者も含めた新たな観光の可能性を示唆。「ほんの少しの工夫で、大きな効果が生まれる」と話しました。
最後に濱岡氏は、岡山県総社市を紹介。障がい者の雇用を推進することで、人口減少に悩む地方都市が活性化した事例です。
別府市と総社市が連携を始めたことにも触れ、「観音寺市も別府市や総社市とつながることで、障がい者支援と地域活性化の両立が可能では」と展望を語りました。
>>>続きは、【後編】ワクワクする新たな地域モデルを創り出していくプロジェクト「カモチャレ観音寺1stコンベンション」開催をご覧ください。
●前半感想:
別府市の町の様子を知り、駅や信号、道の段差、トイレ一つとっても、「地域によってこんなに差があるのか」と驚きました。同時に、自分はまだまだ知らないことが多いと痛感。チャレンジされている方々の話を聞いたり、現場に足を運んだりと、目を向けることが「カモチャレ」の小さな一歩なのかもしれないと感じました。しかし濱岡委員長の話を聞き、「知る」だけでは足りない、とも思いました。自分の「カモ」を見つけて、言語化してみる、誰かに話してみる、そこから何かが生まれる。今日お話してくださったみなさんの経験には、それを信じさせてくれる確かな説得力がありました。