障害について知る 2021年3月18日

絵本『ゆうこさんのルーペ』出版!―共生社会ってどのように創るのだろう?―

子どもも大人も一緒に考えたい、“小さな勇気”のこと。ブライトのアドバイザーであり、先天性弱視のある芳賀優子(はがゆうこ)さんの体験をもとにした絵本が出版されました。
誰もが自分らしく幸せに生きる社会は、どうやって作るのでしょう?そのヒントがきっと見つかる、絵本『ゆうこさんのルーペ』をご紹介します。

1.〝ゆうこさん〟の宝物が絵本に

画像:絵本の表紙

(表紙画像提供:合同出版)

先天性弱視である芳賀優子さんは、文字を読むときにルーペを使っています。

ある日、電車の中で芳賀さんがルーペを出し本を読み始めると、途中から小学生の男の子が乗ってきました。男の子は芳賀さんのルーペに興味津々。「あれ、なに?」と声を上げます。その子のお父さんは、「おばさんに聞いてみたら?」と言いました。

「それは なんですか?」

「これは ルーペ。これで ほんを よんでいるの。

わたしは めが よくみえないの。」

その後、男の子は芳賀さんと一緒にルーペをのぞいて大はしゃぎ…。2人はすっかり打ち解け、男の子は駅に着くと芳賀さんの手を引き一緒に歩いてくれました。この体験は、芳賀さんにとって大切な〝たからもの〟になりました。

芳賀さんのことを、見ないでおこうという人は多いといいます。「聞いてみたら」と、男の子の背中を押したお父さん。勇気を出して聞いてみた男の子。そして丁寧に説明した芳賀さん。

知りたい、知ってほしいという気持ちで歩み寄ったとき、そこに壁はなくなりました。絵本は芳賀さんの体験をもとに、障害や知ることの喜びについて描きます。

画像:絵本の4ページ、5ページ

(本文4−5画像提供:合同出版)

2.弱視であることは障害ではない?

「目があまり見えなくても、たくさん勉強すれば大丈夫。」お医者さんは芳賀さんに言いました。芳賀さんは一生懸命勉強しましたが、本の文字が小さく、読めないことも多かったそうです。

中学1年生の頃ルーペと出会い、すらすらと文字が読める気持ち良さを知りました。弱視は変わらないけれど、ルーペによって大好きな本や新聞を読む自由を得た芳賀さん。

その後、大学でスペイン語を学び、民間企業への就職やラジオ番組の司会など、様々な活動に取り組んでゆきます。絵本には、鳥になったゆうこさんが世界を翔ける姿が。なんて素敵な光景でしょう。

ルーペは まるで はねの よう。

とりになって そらから せかいをながめるように

わたしは いろんなことを しることが できたのよ。

本人と周りの人々の障害に対する向き合い方や環境によって、障害は重くも軽くもなると芳賀さんはいいます。それは〝障害〟のみならず、人々があらゆる困難を乗り越えていくために必要な要素でもあるのかもしれません。

画像:本文32ページ、33ページ

(本文32−33画像提供:合同出版)

3.制作に関わった人々の想い

絵本には芳賀さんの体験に加え、車椅子使用者である海老原宏美さんのエピソードも描かれます。そして巻末には共用品の普及活動に携わる星川安之さん、NPO法人日本障害者協議会代表の藤井克徳さんら、絵本の制作に関った方々の体験や思いが記されています。こちらも障害について考えるための大きなヒントとなるでしょう。

文と絵は、おもしろさとインパクトを追求した奔放な画風が味わい深い、絵本・紙芝居作家の多屋光孫さんによるもの。「この絵本で聞いてみることや知ることのよろこびを、もっと多くの方に感じていただけるとうれしいです」と語っています。

芳賀優子さんは絵本を読む方たちへ向け、次のようなメッセージを述べました。


「障害は、どんなに技術が進み、法律が整っても社会みんなの問題です。共生社会は私達みんなで寄ってたかって創るもの。他力本願にならず、関心を持つこと、〝知ること〟が大切です。

知りたいと思ったら、少しだけ勇気を出して本人に聞いてみてください。そして当事者である私たち障害者も説明をし続ける。相手を理解しようと努めることが大切だと思います。絵本を、障害について一緒に考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。」


 

4.絵本『ゆうこさんのルーペ』から考える

絵本を読んだあと、心の隅の記憶が思い起こされしばらく考え込んでしまいました。

小学校のクラスメイトで腹部にコルセットをつけていた男の子のことや、脳梗塞の後遺症で左半身が不自由であった祖父のことを思い出したのです。言葉をかけようか悩み、躊躇してしまうことが多かった。触れない方が良いように感じたり、相手を傷つけるかもしれないという怖さがそうさせました。思えばそれは、知らないがゆえの怖さだったのかもしれません。

一歩踏み込めていたら、身体のことも彼ら自身のことも、もっとたくさん話して多くの発見があったことでしょう。

イメージ写真:乳児と女性とベビーカー

現在は健康な人でも、後天的に障害を持つ可能性はあります。また定義された〝障害〟でなくとも、社会に生きづらさを感じる人もいるでしょう。乳幼児を連れて街を歩いたり、ちょっと大きな病気をした時など不自由や心細さを感じたこともあります。誰もが〝障害〟と隣り合わせに生きていて、それは決して別の世界のだれかの話ではないと思うのです。

障害の有無に関わらず、もっと気さくに声をかけあえる世界になったら素敵です。違いを恐れず、相手を『知る』ことから。そんな風に思えたら、少し勇気が出せるかもしれませんね。

 


芳賀優子(はが ゆうこ)氏 プロフィール

高校まで盲学校で学び、大学でスペイン語を専攻。ヤマト運輸に22年勤務ののち、NHKラジオ第二放送の視覚障害者のための番組司会等を務める。ユニバーサルデザインやバリアフリーに関する本、絵本の制作など様々な活動に携わる。


 

出版のバリアフリー

この絵本を購入された方で、目の不自由な方や支援者の方向けに、読み上げ対応用のテキストデータを無償提供しています。ご希望の方は、合同出版株式会社(電話:042-401-2930)までご連絡ください。

 

投稿者:守﨑麻衣 投稿者:守﨑麻衣
フリーライター。文化芸術業界で映画・音楽・伝統芸能等の事業や施設運営、広報に携わり、ユニバーサルデザインにも高く関心を寄せる。学生時代は箱根駅伝等の取材に奔走。学芸員、教員免許、色彩検定2級、16ミリ映写機操作技術認定取得。

 

ここがUD

「共生社会は、みんなで寄ってたかって創るもの」という芳賀さんの言葉が印象的です。
違いのある人同士が共に支え合える寛容な社会のことを、子どもも大人も一緒に考えてみませんか?障害とはなにか、互いの理解を深めていくために何が大切なのか。絵本『ゆうこさんのルーペ』はきっとそのヒントを教えてくれるでしょう。