イベント 2024年6月25日

【後編】ワクワクする新たな地域モデルを創り出していくプロジェクト「カモチャレ観音寺1stコンベンション」開催

2024年6月8日、「カモチャレ観音寺1stコンベンション」がハイスタッフホールとオンラインで開催されました。「カモチャレ」とは、「新しい未来ができるカモ!」にみんなでチャレンジしていく、「ワクワクする新たな地域モデル」を創り出していくプロジェクト。
イベント後半は、「教育」「食」がテーマの講演とパネルディスカッションが行われました。
協力:カモチャレ製作委員会とカモチャレ観音寺実行委員会

 

>>>前半は、【前編】ワクワクする新たな地域モデルを創り出していくプロジェクト「カモチャレ観音寺1stコンベンション」をご覧ください。

●2つめのワクワク「教育」

はじめに香川大学医学部衛生学助教であり、NPO法人親の育ちサポートかがわの鈴木裕美氏が登壇しました。鈴木氏は3人のお子さんを育てる母親でもあり、子育ての悩みを身をもって経験してこられました。子どもたちは不登校やうつ病、学校中退を経験するなど、順風満帆とはいかない日々だったそうです。

37歳で医学部に入学、41歳で医師になり、小児科医の道を選択。自身の経験と医学知識を活かし、悩める親御さんたちの支援をしたいと考えるようになりました。

鈴木氏の活動についてのスライド、後述

2017年にはNPO法人「親の育ちサポートかがわ」を設立。子育てについてのセミナーや講演会を開催したり、不登校の子どもたちの居場所づくりをしたりと精力的に活動しています。特に力を入れているのは情報発信だそうです。

例えば、不登校になった時の過ごし方、受診先、勉強方法などをまとめた冊子「ユニパスバンク不登校編」や、定時制・通信制高校の情報を網羅した「ハイスクールプロジェクト」を制作。情報を集約して分かりやすく発信することで、親御さんの不安解消と希望につなげたいと語りました。

スライド。同じ悩みを持つ人たちとアプリで繋がれる「カモ」、レールから外れたことを誇りに思える「カモ」

鈴木氏は、NPOの今後の展望を「カモチャレ」だと語ります。同じ悩みを持つ人同士を繋ぐアプリの開発や、ユニークな生き方を子どもたちが誇りに思えるような社会を目指していきたいと話しました。

次に株式会社エデュシップ 代表取締役社長の佐藤壮二郎氏が登壇しました。同社は埼玉と東京を拠点に、学校教育支援事業を展開しています。
具体的には、全国の小中学校に教材などを届けるプラットフォームの運営と、学校の抱える課題解決に向けた取り組みの2つを担っているそう。

スライド、エデュシップの目的は「日本の教区システムをよりよく変える」

教育課題は教科指導、学校経営、不登校、少子化など多岐にわたりますが、同社は特に「部活動」と「体育」の分野に注目。この分野は学校教育全体の課題が凝縮された「玄関口」のようなものだと佐藤氏は指摘します。

スポーツの課題解決を通して教育の仕組みを変えることで、子どもたちにとってもっとワクワクする未来が作れるはず

同社はこの3年間、「イマチャレ」「カラチャレ」というプロジェクトを通して、全国3000以上の学校や教育委員会、地域団体と共に部活動や体育のあり方を見直してきました。

部活動を巡っては、パワハラや体罰、悪質タックルなどの問題をよく耳にしますが、これらは登校や学校と地域の分断など、教育課題全般とも密接に関わっているとし、「スポーツの課題解決を通して教育の仕組みを変えることで、子どもたちにとってもっとワクワクする未来が作れるはず」と話しました。

●これまでの教育の当たり前を見直し、新しい当たり前を作ろう

「教育」のパネルディスカッションでは、「これまでの教育の当たり前を見直し、これからの新しい当たり前を作ろう」というテーマで議論が交わされました。
濱岡氏が、学校教育の「現状の当たり前」について質問。

質問する濱岡氏

鈴木氏からは、「毎日登校する、遅刻しない、宿題をする、制服を着る」など、子どもたちが従わなければならないルールが数多く存在することが指摘されました。

佐藤氏は、部活動を例に挙げ、入学から2週間で部活を決めたらその後3年間変更できないこと、週5〜6日の練習が当たり前とされていることなど、子どもたちの選択肢が制限されている現状を説明。学校の用意した部活動の中から選ばざるを得ず、やりたいものがなくても我慢するしかないと述べました。

回答する鈴木氏

こうした当たり前を押し付けられる中で、子どもたちは「学校に行きたくない」「勉強についていけない」「自分に合っていない」といった反応を示すようになっていると鈴木氏は分析。不登校増加の背景には、画一的な教育に合わない子どもたちが自分の居場所を見失ってしまう構造があると指摘しました。

一方で、フリースクールの利用を出席扱いにする学校が増えたり、半年ごとに部活動を変更できるルールを導入する学校が出てきたりと、少しずつ変化の兆しもあるそうです。

これからの教育に求められるのは、子どもの視点に立って一人ひとりの思いを汲み取ること。佐藤氏は、「子ども・保護者・教員に大規模なアンケートを取り、子どもたちの本音と向き合うことが必要」と話します。

佐藤氏が話される様子

「ある市のアンケートでは、中学生がやりたい部活動の1位がバドミントン、2位が料理、3位がプログラミングでした。でもその3つとも全ての中学校にないものだった。この結果からも分かるように、子ども目線で授業や部活動のあり方を考え、子どもたちが望む選択肢を一緒に作っていくことが大切です」

鈴木氏も、「教育支援センター」「フリースペース」「オンライン授業」など、多様な学びの選択肢を最初から子どもたちに示すことが重要と強調。「もし学校に通いづらくなっても大丈夫。様々な学び方・生き方があるんだよ」とサポートの手を差し伸べることで、子どもたちは安心して新しいチャレンジができるはずだと語りました。

●3つめのワクワク「食」

株式会社グローシーディングブルーム代表取締役・松葉氏の講演の様子

「食」がテーマの講演では、株式会社グローシーディングブルーム代表取締役・松葉陽祐氏による講演が行われました。
松葉氏は、長野市にある東京ドーム4個分の広大な農地で小麦や大豆、さつま芋、シャインマスカット、米などの作物を生産。驚くべきことに、この広大な農地を松葉氏1人で管理しているそうです。

講演では、創業当初の苦労話が印象的でした。ひょう被害でほとんど収穫ができなかったブドウ。凍霜害で全滅した小麦。「毎日泣いていた」という松葉氏でしたが、「福祉事業所の利用者さんたちが助けてくれた」というエピソードを紹介しました。

「農福連携という言葉がありますよね。ぼくはその時、『障がいがある方に安い給料で手伝ってもらえる』と最低な発想をしてしまったんです」と振り返る松葉氏。
しかし、「どうやったら農作物が売れるか一緒に考えてくれた。手紙を同封しようと提案してくれたり、植え付けを手伝ってもらったり、彼らのおかげで農作物が売れ始めた」と話し、「農業の側こそ助けられている」という気付きに変わったと語りました。現在は5つの福祉事業所と連携しているそうです。

スマート農業についての説明。ドローンや自動操縦トラクターの紹介

また、ICT(情報通信技術)を活用した新しい農業の形も模索中。ドローンで農薬を散布したり、GPSを使って真っ直ぐ走れるトラクターを導入したりと、最新技術を取り入れているそうです。
「こうした設備の導入が、障がいのある方の得意分野を活かすことに繋がればいい。より多様な人材が活躍できる農業を目指している」とも。

例えば、体力に自信のある方に農作業を任せ、言葉を正確に理解し実行できる方に無線での連絡役を任せるなど、障がいの特性を強みに変える工夫を。これは「カモチャレ」の一つだと語りました。新たに地元企業「有限会社タンポポ」の経営も手掛け始め、農作物の生産だけでなく加工や販売にも乗り出し、地産地消を確立していきたいと話します。

最後に松葉氏は「ワクワクすることを恥ずかしがらず胸を張って言う」「助けてくれる人への感謝を忘れない」と話し、「チャレンジを諦めないこと」が自身の経営理念であり、人生最大の「カモチャレ」だと宣言しました。

●自分が思う価値観への挑戦!

続いて観音寺市で無農薬・有機栽培に取り組む「良ちゃん農園」代表・大西良一氏と、濱岡委員長によるパネルディスカッションが行われました。

大西氏は昨年5月から、地元である観音寺で化学合成農薬や除草剤、化学肥料を一切使わない農業を実践しているそうです。就農のきっかけは、母親の介護で実家に戻る必要があったこと、そしてちょうどその頃に有機農業の勉強会に参加し、科学的な理解が深まったことだったといいます。

「良ちゃん農園」代表・大西氏

目指すのは、単に安全安心なだけでなく、美味しくて栄養価の高い野菜作りだそうです。「光合成によって多くの炭水化物を合成できる植物ほど、栄養価が高く、美味しく、丈夫に育つ」と大西氏は話します。

日本における有機農業の畑は全体の0.2%。この数字からも分かるように、有機野菜の栽培は容易ではありません。農薬を使わないことで病気や虫害のリスクは高まり、収穫量も減ってしまう。「有機農業は本当に難しい」と大西氏。それでも「食べたものが体を作る」のだから、安心して食べられる野菜作りはとても大切なのだと話します。

難しい課題にどう立ち向かうのか。大西氏は、知人やインターネットで情報を集め、微生物などの安全な資材を使用しているそうです。効果はゆっくりだけれど、健康への影響も少ない。そんな工夫を重ねながら、信念を持って有機栽培を続けているのだと語りました。

ディスカッションの全景

「難しいことでも、他にやっている人がいるなら自分にもできる」と話す大西氏。
先行事例を参考に、諦めずにチャレンジし続けることの大切さを訴える大西氏に、濱岡委員長も「真似することは学びの基本」だと深く頷きました。

●おわりに

カモチャレ観音寺ファーストコンベンションの締めくくりとして、主催者の濱岡氏より今後の展望が語られました。「自分の『カモ』を言語化するのは簡単ではありません」と切り出し、多くの人が「カモ」を見つけ、磨くためのワークショップを開催する予定だと話しました。

ワークショップの一例。紙コップスピーカーを作るイベントの紹介

9月7日には、障がいのある方が講師となって小中学生向けの工作教室を開催。12月には、地元高校生と商店街のメタバース化に挑戦します。

商店街のメタバース化についての紹介スライド

「どうせやるなら観音寺市内の全高校生に参加してもらいたい」と熱い想いを語りました。

濱岡氏は、今回のイベントで紹介された「わくわくする事例」以外にも、全国には素晴らしい取り組みがたくさんあると話します。それらを知るだけでなく、参加者自身の「カモ(できるかも)」を見つけ、発信していくことが大切だと訴えました。

>>>前半は、【前編】ワクワクする新たな地域モデルを創り出していくプロジェクト「カモチャレ観音寺1stコンベンション」開催をご覧ください。

ここがUD

●後半感想:
「教育」についての講演を聞き、「現状の当たり前」に疑問を抱いている子どもはどれくらいいるのだろう、と思わず考えました。恐らく少ないのではないでしょうか。悲しいことに、「当たり前」に疑問を持つ機会すらないのが現状の学校教育なのかもしれません。しかし、「子どもたちが自分で選び、自分で決めることが大切」だと話す大人がこれだけいて、自己決定を重んじる学校も増えている。画一的な学校教育が少しずつ変化してきていることを知り、希望を抱きました。
また、松葉さんが身をもって「農福連携」の言葉の意味を知ったというエピソードが印象的でした。当事者と関わることで自身の偏見に気づけた松葉さんのお話に、行動することの重要性を改めて考えさせられました。