経済産業省主催「情報アクセシビリティセミナー」で発表しました
2022年5月に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行されたのをご存知ですか?
情報へのアクセシビリティ向上を一層加速していくため、3月13日(月)、経済産業省主催のオンラインセミナー「障害者アクセシビリティの動向とサステナブル・ビジネスへの期待」が行われ、280名を超える申し込みがありました。
当日は、ブライトの渡辺が発表者のひとりに。アクセシビリティ取り組みの背景や、ポイントなどを紹介しました。当日の様子をレポートします。
1. 発表者紹介 |
1. 発表者紹介
はじめに、本セミナーを運営した株式会社野村総合研究所 ヘルスケア・サービスコンサルティング部 コンサルタント田中曜子さんから「グローバルにおけるアクセシビリティをとりまく状況」について説明がありました。
その後、各企業がアクセシビリティの取り組みを紹介。アクセシビリティ向上をビジネスとしてとらえ、先進的な取り組みを進めている企業から、3名が発表しました。
・ソニー株式会社 サステナビリティ推進部門 アクセシビリティ推進室長 西川文さん ・株式会社アイエスゲート シニアメディカルフェロー 宮田充さん ・株式会社ブライト 専務取締役 渡辺慶子 |
2. ブライトの取り組み
ブライトは3つのテーマで話をしました。
①ユニバーサルデザイン事業化への道のり
②アクセシビリティ配慮の好事例
③今後の情報アクセシビリティ向上のために
本題に入る前に5つの質問を用意し、参加しているみなさんに「自社の情報アクセシビリティ度」を〇×でチェックしてもらいました。
チェック1 | パンフレットで、難しい漢字や略語に読みがなをふっている |
チェック2 | 取扱説明書は、音声でも聞くことができる |
チェック3 | WEBは、マウスを使わずキーボードだけで操作ができる |
チェック4 | 動画には、字幕が付いている(機能がある) |
チェック5 | 印刷物、Web、動画は、障害当事者から意見を聞いている |
これら5つのチェック項目はすべて必要な配慮です。
◯がつかなかった方、自社の状況がよくわからないという方も取り組めるよう、のちほど好事例を紹介します。
3. ユニバーサルデザイン事業化への道のり
①ユニバーサルデザインを事業化した背景
もともと印刷会社に勤務していた渡辺は2004年、視覚、聴覚、身体、知的障害者団体の方々と協働で「江戸川区バリアフリーマップ」を制作したときに、地図を読み上げる「音声コード」を採用しました。
このとき渡辺は「見た目にきれいな地図を作っても、アクセシビリティに配慮しなければ情報が伝わらない」と気付きました。
知的障害者のスポーツ支援をする「スペシャルオリンピックス」でボランティアしていたこともきっかけとなり、2007年に株式会社ブライトを起業しました。
②ブライトの企業理念「三方良し」
WEBや動画などの情報ツールは、お客様と制作会社の2方向で制作することが一般的です。
しかしブライトでは、高齢者・障害者・外国人など利用者と3方向で制作することを理念としています。これはSDGsの「誰も取り残さない持続可能なシステム」にもつながります。
最近では、小学生や中学生から意見を聞いて、子ども向けのデザインも制作しています。
4. アクセシビリティ配慮の好事例
続いては、アクセシビリティに配慮した制作事例を3つ紹介しました。
全銀協相談室の利用者は60代以上が多いため、高齢者や、情報にアクセスしにくい障害者から意見を聞き、冊子、WEB、動画のアクセシビリティを向上しました。実際にどのような意見があがったのでしょうか?
・聴覚障害者の声「“ぜんぎんきょう”などの略した言葉には読みがなをふってほしい」
略語のように辞書にのっていない言葉は、どのように読むのか分からないため、読みがなをふってほしいとの声がありました。読みがなは、障害者だけでなく子どもや外国人などへの配慮としても有効です。
・視覚障害者の声「図版入りのPDFは正しく読まない場合があるので、読み上げ用テキストデータがよい」
本レポートでは、PDFと一緒に読み上げ用テキストデータをホームページに掲載しました。「音声読み上げ機能はお金がかかるのでは?」と、費用を心配する質問を多く受けますが、読み上げ用テキストデータは比較的低コストで汎用性が高いので、さまざまなツールで活用されています。
これらの要望を反映して、「全銀協ADR 運営状況レポート」を改善した結果、「とても分かりやすい内容なので、追加で冊子を送ってほしい」などの反響が集まりました。高齢者や障害者の声を反映させたことで誰にでも分かる内容となり、多くの方に活用されたのです。全銀協ADRを広く周知することにつながった好事例です。
完成した「全銀協ADR 運営状況レポート」冊子、読上げ用テキストデータ、字幕付き動画は、全国銀行協会のWEBでご覧いただけます。 |
この冊子は、交通事故の被害にあった方に「最低限知ってほしいポイント」をまとめたものです。以前は冊子を全国に配布していましたが、視覚障害者などすべての人に情報が届くように、2021年度から「JIS X 8341-3」を活用してWEBアクセシビリティを向上していきました。
「JIS X 8341-3」とは、どのようなアクセシビリティ配慮が必要なのかを細かく規定しているガイドラインです。
たとえば「キーボードのみで操作できること」という項目があります。視覚障害者はマウスを使わず、キーボードの「Tabキー」や「Enterキー」などで操作し、音声でWEBの内容を聞いているからです。
そのほか「字幕をつける」項目があります。聴覚障害者に有効とされる字幕は、障害の有無に関わらず役立ちます。たとえば音を出すのが難しい場所でも動画視聴できるなど、多くの人が便利に使えるのです。
「交通事故被害者のために」特設サイトは、障害の有無に関わらず多くの利用者がアクセスしやすくなりました。これらの配慮はSEO対策にも効果的だと言われているため、サイトの評価が総合的に上がった好事例です。
はじめのチェック項目で〇が付かなった方は、「JIS X 8341-3」を参考に改善していくことをおすすめします。
完成した「交通事故被害者のために」特設サイト、字幕付き動画は、日本損害保険協会のWEBでご覧いただけます。 |
●事例3:成田国際空港「保安検査場用コミュニケーション支援ボード」
荷物を検査する保安検査場では、言葉でのコミュニケーションに不安のある方が一定数いらっしゃいます。そこで、障害者や外国人から意見を聞きながら、「JIS T0103」を活用して「指差しで会話ができる支援ツール」を開発しました。
「JIS T0103」は「コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則」といって、“わからない”、“服を脱ぐ”など、人の感情や動作を表す絵記号の規格です。現在、300種類以上の絵記号が無償で公開されています。
ブライトでは「JIS T0103」を用いてデモ版を作り、外国人や障害者、保安検査場の検査員に絵記号の意味が伝わるかを検証しながら制作を進めました。日本語だけではなく、中国語やタイ語など6つの言語にも対応し、現在は第1から第3の全てのターミナルで活用されています。
「コミュニケーション支援ボード」を導入した結果、検査内容のスムーズな説明が可能となり、障害者だけでなく、外国人とのコミュニケーションにも大いに役立ったと報告を受けています。
コミュニケーションが円滑化したことで、保安検査場の混雑を緩和するというメリットにもつながった好事例です。
「保安検査場用コミュニケーション支援ボード」の詳細は、成田国際空港のWEBでご覧いただけます。 |
5. 今後の情報アクセシビリティ向上のために
ブライトでは、今後の情報アクセシビリティ向上のために障害当事者から意見を伺いました。
①視覚障害者からの要望
・「就活サイトなど、すべてオンラインでできて嬉しい!」
ここ数年で、アクセシビリティの進化を実感している当事者が増加しました。特に就職活動では職探しから、面接、入社までとてもスムーズになったそうです。とはいえ、まだまだ紙の手続きが多く残っているので、今後はオンライン対応にすることが望まれています。
・「商品の使い方がYouTubeで解説され分かりやすい!」
動画は視覚障害者にとって有効なツールです。今後は視覚、聴覚、両方に配慮した動画コンテンツが求められます。
・「音声対応のWebは増えたが、情報量が多すぎる…」
これは障害者だけではなく、多くの利用者からあがる意見です。情報を伝える側は、何百ページという大量の情報を発信してしまうのですが、利用者の多くは必要な情報にたどり着けません。今後は、利用者が必要な情報に絞り、優先順位をつけて発信していくことが求められます。
②聴覚障害者からの要望
・「テレビの字幕が増え、日本語会話のリズムを学べる!」
手話を使う人にとって、字幕は日本語会話を学ぶ機能として役立つそうです。改善点として、生放送では発声と字幕にズレが生じやすく、分かりづらくなってしまうことがあがりました。
・「電話リレーサービスは手話でアクセスできありがたい!」
電話リレーサービスとは、聞こえる人と聞こえない人を手話やチャットでつなぐ公共のサービスです。問合せ窓口は電話のみの施設が多いので、今後は電話リレーサービス、メール、チャットなどの導入が望まれています。
・「災害等の緊急時アクセスは音が中心、視覚情報もほしい…」
日常のアクセシビリティは向上したと実感していても、緊急時は何が起きているのか理解できないといいます。命にかかわる問題なので、緊急時はアナログも含めた視覚情報を確保することが重要です。
6. アクセシビリティ対策のまとめ
最後に、アクセシビリティ向上のためのポイントを3つにまとめました。
1 障害当事者の声を聞きながら進める
アクセシビリティ向上のために、当事者の意見は欠かせません。どのような配慮が必要か、障害当事者の声に耳を傾けることが必要です。
2 JISなどを上手く活用する
中小企業では予算やノウハウ不足などの側面から、情報アクセシビリティの品質に不安が残ることがあるかと思います。ブライトも中小企業ですが、「JIS T0103」「JIS X 8341」などの規格を活用することで、情報アクセシビリティの品質向上につなげています。
3 障害者だけのためでなく事業メリットにつなげる
制作事例で紹介したように、情報アクセシビリティの向上、さまざまな配慮は、障害の有無に関わらず多くの人の利便性向上につながります。それが結果的に、企業側のメリットにもなり、SDGs推進や競争力強化につながります。
※たくさんの感想や質問をお寄せくださり、ありがとうございます。
後日、質問の回答や内容を掘り下げた「続編」を公開予定です!
発表者:渡辺 慶子(株式会社ブライト 専務取締役)
「江戸川区バリアフリーマップ」を行政、障害者団体と連携しながら作成したことがきっかけで、ユニバーサルデザイン事業を展開。 フジテレビや各種新聞で「高齢者・障害者に分かりやすい伝え方」を解説。その他、NTTグループ、北海道ガス、アクセシブルデザイン推進協議会など講演多数。 スペシャルオリンピックスでは、2007年の夏季世界⼤会(上海)・ 体操競技⽇本代表コーチを務める。 |
【参加者の感想】
情報アクセシビリティ向上は、障害がある方のためのものと思わがちですが、そうではありませんでした。高齢者や障害者、外国人にとって使いやすいツールやサービスは、すべての人のユーザビリティ向上につながります。
また、アクセシビリティ向上のための取り組みは結果的に、Webへのアクセス数増加や、会社の認知度アップ、SDGs推進など企業側のメリットにもなります。そのためにはまず、当事者の意見を聞くこと、そして小さな不便も見逃さないことが大切なのだと感じました。
この理解が広まれば、「誰一人取り残さない社会」の実現に大きく近づくのかもしれません。