アクセシビリティ 2023年2月12日

情報のアクセシビリティ向上は、どのように行うの?

2022年5月に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が施行されました。

 

情報弱者と言われる、高齢者、障害者、外国人などがアクセスしやすい「情報アクセシビリティ」の向上が求められています。しかし、どこから着手してよいか分からない人もいらっしゃるのではないでしょうか?

イメージ画像:アクセシビリティ

はじめに、あなたの会社の情報アクセシビリティ度をチェックしてみましょう。

次の1〜6の質問に、○×で回答してみてください。

チェック1 商品カタログで、難しい漢字には読みがなを振っている
チェック2 取り扱い説明書は、音声でも聞くことができる
チェック3 会社のホームページは、マウスを使わずキーボードだけで操作できる
チェック4 プレゼンなどの資料は、白黒で出力しても分かりやすい
チェック5 日本語以外の情報ツールがある(多言語、手話、ピクトグラムなど)
チェック6 情報ツールについて、障害を持った人から意見を聞くことができる

 

すべて○が付いた人は、情報アクセシビリティ度が100%に近いです!

ひとつでも×が付いた人、これから取り組んでいく人のために、ブライトが「情報アクセシビリティ」を0から構築していった経緯を事例を交えながら紹介していきます。

 

1.当事者から教わる

情報を入手することが困難な方々から、実際に情報ツールの改善や配慮方法を教えてもらうことが1番。1つ目の事例は、高齢者や障害者から意見を伺いながら作った好事例です。

2021年度、全国銀行協会の相談室には、12,884件の相談、4,198件の苦情が寄せられました。そこで具体的な相談の事例や、フィッシング詐欺の注意喚起など「運営状況レポート」を年1回発行しています。

相談室では、60代以上の利用者が54.5%と割合が高いため「運営状況レポート」のアクセシビリティを向上させるために、高齢者や障害者から意見を伺い改善していきました。

 

写真:アニュアルレポート4号表紙

 

例えば、聴覚障害の方からは「略語の読み方が分からないので、読み仮名をふってほしい」との要望があがりました。

「全国」や「銀行」の読み方は、学校で学び辞典で調べれば分かりますが、「全銀協(ぜんぎんきょう)」などの略語は、耳の不自由な人は話し声を聞く機会がないため、正しい読み方が分からないのです。もちろん、知的障害者や外国人など漢字が苦手な方々にも有効な手法です。

 

また、視覚障害の方は冊子を読む代わりに、何から情報を得ているのか、ご存知ですか?

スマホと音声マーク

視覚障害の方は、パソコンやスマホの「音声読み上げ機能」を使って情報を得ています。
PDFよりも、読み上げ対応の「テキストデータ」が利用しやすい方が多くいるのです。

 

「運営状況レポート」は、全国の消費生活センターへ配布されましたが、「内容がとても分かりやすく参考になる。もっと多く送ってもらえないか?」などの反響もあったそうです。

 

現在ブライトでは、高齢者モニター800人以上、障害者モニター300人以上と連携していますが、設立当初は知り合いの高齢者2〜3人規模から始めました。その後、共⽤品推進機構の賛助会員として活動する中で、障害者団体などを紹介いただき、現在に至っています。

 

※参考:全銀協ADR運営状況レポート

 

 

.情報ツールが選べるよう複数用意する

アクセスしやすい配慮は個人差があるため、できるだけ情報の入手方法が選べるように複数用意することが大切です。予め設計してからツールを制作することでトータルコストを抑えることも。2つ目の事例は、冊子をWebや動画に展開していったものです。

画像:交通事故被害者のために冊子2021年度版

交通事故による死傷者数は年間約36万人(警察庁2021年)と深刻な状況です。交通事故は突然の出来事で、 どうしたらよいのか戸惑うことばかりです。

そこで日本損害保険協会では、交通事故の被害者の方に最低限知っておいていただきたいポイントをまとめた冊子「交通事故被害者のために」で情報を提供しています。

できるだけ多くの消費者、特に情報弱者にも必要な情報が届くよう、2021年度版からはWebや動画での情報提供を開始し、アクセシビリティを向上しました。

 

PC画面:請求前に知っておきたいこと

 

全盲の方は、マウスを使わずにキーボードで操作をします。しかし、アクセシビリティを意識していないWEBは、キーボードで動かないページがあるのです。そこで指標になるのが「JIS X 8341-3:2016」。画像は音声で読めるように改善、など重要なものからアクセシビリティを向上していくことがオススメです。

 

スマホ画面:相手を確認する画面

 

動画は、スマホでも見やすく設計されており、いつどこでも視聴できます。また、字幕付きのため、音声が出せない環境や聴覚障害者への配慮としても有効です。

この冊子は、色使いも工夫しています。

色弱者(色の区別が苦手な人)は日本に320万人以上いると言われているためカラーユニバーサルデザイン検証を行い、色の区別がしやすいよう配慮されています。

 

マーク:カラーユニバーサルデザイン認証

 

当時のご担当の方は、アクセシビリティに関する知識が全くなかったので、何から取り組めばよいのか困っていました。そこで、ブライトが障害当事者がどのように情報を得ているのかを実践、必要な配慮方法を具体的に共有して進めていきました。
完成後には、すっかりアクセシビリティにも詳しくなり「今後は他の案件にも必要な配慮ですね」という嬉しい言葉をいただきました。

 

なお、すベてデジタル化すればアクセシビリティが向上すると誤解する人がいますが違います。「冊子の方が理解しやすい」という高齢者やパソコン操作が苦手な人も一定数いるからです。ポイントは「情報を必要としている人へ、受け取りやすい手段で、多くの人に平等に伝える」ことなのです。

 

※参考:交通事故-被害者のために-特設サイト

 

 

3.課題解決に向けて、段階的に導入

「情報アクセシビリティ」というと、大企業が取り組んでいるシステム開発や、最先端のツールをイメージする方も多いのではないでしょうか?実は、コミュニケーションをとる場合にアナログのツールのほうがよいこともあるのです。

 

コミュニケーション支援ボード

 

日本では、東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向け、世界に誇れる水準でユニバーサルデザイン化された公共施設・交通インフラを整備していきました。そこで、成田国際空港では、コミュニケーションにお困りのお客様向けに「保安検査場用コミュニケーション支援ボード」を作成。

まずはテスト版を作って、ピクトの意味が伝わるか?障害者や外国人から意見を伺います。また、実際に利用する検査員の方からの意見を集約し、ブラッシュアップしていきました。

 

障害者向け空港保安検査場コミュニケーション支援ボード

 

空港の保安検査会社が協同で取り組んだため、第1、第2、第3の全ターミナルへの導入が実現。特に外国人のお客様には、検査内容を絵記号や多言語でスムーズに説明ができ、保安検査場の混雑緩和の一助となりました。

 

※参考:保安検査場用コミュニケーション支援ボード

 

 

情報アクセシビリティに取り組むことで、多くのメリットも生まれます。

例えば、
・高齢者向けに作った教材が「学生や社会人が勉強するのにちょうどよい」と活用度がアップ
・WEBを音声対応できるよう改善したことで「検索ランキングが上がりアクセス数も増えた」
・情報弱者にも配慮するとSDGs「誰一人取り残さない」の推進にもつながる
などなど。

小さいことでも、身近なこと、できることから「情報アクセシビリティ」を始めてみませんか?

 

 

顔写真:ブライト渡辺慶子 投稿者:渡辺慶子(株式会社ブライト 専務取締役)

「江戸川区バリアフリーマップ」を行政、障害者団体と連携しながら作成したことがきっかけで、ユニバーサルデザイン事業を展開。

フジテレビや各種新聞で「高齢者・障害者に分かりやすい伝え方」を解説。その他、NTTグループ、北海道ガス、アクセシブルデザイン推進協議会など講演多数。

スペシャルオリンピックスでは、2007年の夏季世界⼤会(上海)・ 体操競技⽇本代表コーチを務める。