障害について知る 2022年10月21日

「すべての子どもが安心して過ごせる社会」を考えるシンポジウム開催

「すべての子どもが安心して過ごせる社会」とは、どんな社会でしょうか?
8月6日(土)、2022きょうだい児サポートプロジェクト第2弾を開催。今回のイベントでは、病気や障がいのある子ども、きょうだい児(障がいがある子どもの兄弟)だけではなく、すべての子どもが安心して過ごせる社会の在り方を考えました。

 

画像:イベントの告知ポスター

 

きょうだい児サポートプロジェクト第1弾は「ペットボトルで雲をつくる?障がいや病気のある子どものきょうだいのイベント」をご覧ください。

ペットボトルで雲をつくる?障がいや病気のある子どものきょうだいのイベント

 

主催は前回に引き続き、ルピナス看護ステーション所長の重永あずささんと、横浜国立大学教育学部講師の高野陽介さんです。

 

ゲストに、一般社団法人Yukuri-te代表理事・亀田総合病院小児科部長の湯浅正太さん、千葉県富津市役所 健康福祉部 福祉の窓口課 山口順平さんの2名を迎え、ディスカッション形式で意見を交換しました。

 

画面:本日のプログラム内容

 

それでは詳しく見ていきましょう!

 

特別公演「子ども真ん中社会の実現に向けて」

 

はじめに、自見はなこ先生(参議院議員・小児科専門医)による特別講演がありました。
もともと小児科の医師として勤務されていた自見先生は、6年前に参議院選挙で当選されました。与野党合わせて700名を超える国会議員の中で、小児科の医師はたった2名。与党では、自見先生が唯一の小児科医師です。

 

こども政策だけではなく、医療・介護・福祉などを専門に活動されている自見先生ですが、「9割は子どものことで頭がうめつくされている特殊な国会議員だと思います」と笑顔を見せます。
子どもとその家族が幸せになるためには医療・教育・療育・福祉・家族支援が一体になることが重要だと、自見先生は言います。

 

「これまで、女性の議員が子ども・子育てについて発言しても、『個人の考え』とされなかなか聞き入れられませんでした。私が参議院議員になってよかったと感じるのは、小児科医師の専門性のある意見として、きちんと聞き入れてもらえるようになったことです」

 

今後について、「子どもたちが、『大人や国という大きな存在が自分を守ってくれている』という安心感を持てるように努めたい」と話し、講演を締めくくりました。

 

シンポジウム「すべての子どもが安心して過ごせる社会・きょうだい児について考える」

 

シンポジウムは、高野さん、重永さん、湯浅さん、山口さんの4名で進められました。

 

トークテーマは以下の3つです。

1.専門家から見た「子どもの環境」、現状や課題

2.支援の必要な子どもの背景とわたしたちにできること

3.すべての子どもが安心して過ごせる居場所の実現に向けて

 

画面:シンポジウムの内容

 

 

1.専門家から見た「子どもの環境」、現状や課題

 

▼湯浅さん

「小児科医として多くの子どもとかかわっていますが、生きづらさを抱えた子どもが増えていることを感じます。その背景にはさまざまな課題がありますが、周りの大人たちに心の余裕がなく、子どもとかかわる時間が少ないことが大きいですね」

 

▼高野さん

「私は特別支援教育にかかわっており、さまざまな学校に行くのですが、最近よく話題に上がるのが発達障害についてです。ADHD、自閉スペクトラム症、学習障害など、目に見えない障がいだとどう接して良いのか分からない、そもそも障がいに気づかないといった問題があります。そしてその兄弟にも、どのように声をかけるべきか苦慮している先生が多くいらっしゃいます」

 

▼重永さん

「子どもの行動や考え方、価値観は、周りの大人からの影響がとても大きいです。つまり、子どもの権利の阻害は身近なところで起こり得る。こうした倫理上の課題について子ども自身が知り、考える環境を整備していくことが重要であり、看護師が担える課題であるとも考えています」

 

2.支援の必要な子どもの背景とわたしたちにできること

 

イメージ画像:大人と子どもがつなぐ手

 

▼重永さん

「訪問看護師の役割は、患者さんとその家族の中に入り込んでいくことです。患者さんのご自宅を訪問した際、柱の影から何かを訴えているきょうだい児を見たことが何度もあり、印象に残っています。彼らのために何かできることがないかと企画したのが本プロジェクトなのですが、各家庭においてどこまで入り込んでよいのかが難しい点ですね」

 

▼湯浅さん

「まずは、子どもたちがSOSを出せるような関係性を築くこと。子ども自身がSOSを出さなければ、大人はなかなか気づけません。SOSを出してもらうためには、子どもとの関係性の構築がもっとも重要です」

 

イラスト:青年 質問1:

子どものサポートで意識していることはありますか?

 

▼重永さん

「私が所属する訪問看護ステーションでは、子どもがどういった場所で生活しているか、看護師自身の目で見ることを徹底しています。たとえば通学路や施設などを実際に見て状況を把握。共通の話題が持てるように取り組んでいます」

 

▼湯浅さん

「きょうだい児が付き添いで診察室に来たら、必ず『今日は来てくれてありがとう』と声をかけるようにしています。『あなたのこともみているよ』と伝え、存在意義を認めることを積極的に意識していますね。子どもが不満を吐き出したり、何気ない会話が気軽にできたりするようになれば、SOSを出せる関係性になるはずです」

 

 

イラスト:青年 質問2:

発達障害やきょうだい児は、大人になってから『自分が置かれる環境は普通ではなかった』と気付くパターンが多いのでしょうか?

 

▼湯浅さん

「子どものうちは、自分の生きている環境を『正』と解釈してしまいます。つらいことがあったとしても、それが当たり前だと正当化する心が自然と働くのです。ただ、その記憶や経験のせいで、大人になってから心が擦れていく。そして、人間関係が崩れてしまうこともあります。それを回避するためには、子どものうちから心を豊かに育てることが大切です」

 

イラスト:青年 質問3:

富津市として早期対応するための取り組みはありますか?

 

▼山口さん

「大人になってから療育手帳を取られる方が多くいらっしゃいます。しかし本当は、子どものうちから特性に合った支援をすることが大切ですよね。富津市では、療育等支援事業をしており、子どもの発達に遅れを感じている人や、ちょっとした困りごとがある親御さん、保育所、学校関係者に向けて、専門家(言語聴覚士や臨床心理士など)の力を借りながら支援しています」

※富津市 療育等支援事業
https://www.city.futtsu.lg.jp/0000002993.html

 

イメージ画像:こども食堂

 

▼重永さん

「私たち訪問看護師も、富津市と連携して動いています。また、富津市はこども食堂が多く、子どもの変化に細やかに気づいていこうという取り組みが盛んです。そういった場所でも、子どもや親御さんの声に耳を傾けていきたいですね」

 

3.すべての子どもが安心して過ごせる居場所の実現に向けて

 

▼山口さん

「富津市では、『障がいかどうか分からず身動きがとれない』といった不安を抱えた方が、気軽に相談できる体制を整えています。基幹相談支援センターを設置し、障がいの種別や障害者手帳の有無にかかわらず、福祉制度の利用や生活するうえでの困りごとなどの相談に応じます。看護師や専門職など、他職種の方と連携し子育てのしやすい街を目指しています」

※富津市基幹相談支援センター
https://www.city.futtsu.lg.jp/0000006478.html

 

▼重永さん

「私はこれからも看護にこだわりたいと思っています。なぜなら看護師は、子どもの医療課題と発達課題、両面をサポートできるエキスパートだからです。子どもたちの思いを医療にどう組み込んでいくかを考え、子どもの思いが詰まった医療を提供していきたい。また訪問看護師だからこそ聞こえる地域の声、家族の声をすくい上げ、関係各位に提言していきたいです」

 

▼湯浅さん

「子どもが安心して過ごせる場所をつくるには、周りの大人が余裕を持つことが大切です。現代では心の余裕がないまま子どもと接する大人が多いですが、それでは子どもの余裕も生み出せません。そのため今後は、高齢者の活躍が重要になってきます。人生経験豊富な高齢者には、積極的に子どもとかかわってほしい。高齢者が地域で活躍できる場を生み出す必要があると感じています」

 

▼高野さん

「いま、インクルーシブ教育(障がいの有無にかかわらず、共に学ぶこと)が求められています。インクルーシブ教育には何が必要かを障がい当事者に聞くと、ほとんどの人が「障がい理解」だと回答します。しかし、障がい理解とは何かと聞くと、『クラスメイトが理解してくれること』『身近な人が手伝ってくれること』など、捉え方は人それぞれでした。それを受け私たちも、『障がい児だから』『障がい児の兄弟だから』とひとまとめにするのではなく、一人の子どもとして捉え必要なサポートを考えることが大切だと改めて感じました」

 

■参加者からの質疑応答タイム

 

イラスト:シニアの女性 参加者からの質問1:

こども食堂のあり方とは?コロナの影響で大人が弁当を取りに来ます。子どもの声が聞けず、本来の役割をなしていないのでは?

 

▼重永さん

「子どもの参加を促す取り組みを企画するのも一つかと思います。こども食堂に大人があふれている現場は、私も見てきました。なんとかできないかと、子どもたちに寄せ書きをしてもらうイベントを企画したところ、こども食堂にくる児童数が増えたことがあります」

 

▼湯浅さん

「その通りですね。高齢者にも参加してもらい、ベイゴマなど昔の文化を伝えるのもいいですね!」

 

イラスト:シニア男性 参加者からの質問2:

きょうだい児のキャリア・進路に関するサポートはどのようにすればよいのでしょうか?

 

▼湯浅さん

「きょうだい児は、家族や兄弟が苦労しているのを見ている分、医療職や福祉職につくのがよいと思いがちです。しかし、本当にやりたいことは別にあることも少なくないのです。そのためきょうだい児には、さまざまな分野・職種を見せてあげることが大切だと思います」

 

▼高野さん

「将来をどう思い描いて、どう生きていくかを、子どもたちが自ら考えることが重要です。しかし教育現場では、勉強以外のことを教えられる機会がなかなかありません。教育現場で働いていると、自分の気持ちに気づいていない子どもが多いと感じますね。まずは自分自身のことをしっかりと考える時間をつくってあげることが大切ですね」

 

質疑応答では、多種多様な職種の方々から多くの質問が寄せられました。きょうだい児や子どもたちとのかかわり方に悩んだり、不安を抱えている人が多い様子が伝わりました。一方で、子どもたちが安心して過ごせる社会をつくりたいと真剣に考え、アクションを起こしている方たちがこんなにもいるんだということが伺えます。

 

イベントも終盤、高野さんから締めの言葉がありました。

ここがUD

『すべての子どもが安心して過ごせる社会』とは何かを、それぞれの立場から考えて、小さくてもいいからアクションすることが大切です。たとえば私は、大学できょうだい児をゲストに招き講義をすることがあります。その積み重ねで、きょうだい児について知る教員が増え、当事者とのかかわり方に変化が生まれたらーー。そんな良い連鎖を起こしたいと思いアクションを起こしました。『知る』ことももちろん大切ですが、それで終わりにせず、自分ができることを考えてみてもらえれば幸いです。