SDGsの取り組み 2022年3月25日

銀行で障害者が困る3つのこと、ATMの操作、窓口の表示、もうひとつは?

2030年までに、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」では、「誰ひとり取り残さない(No one will be left behind)」という理念のもと、弱い立場の人々に焦点をあてています。

 

SDGsアイコン

しかしながら、どうしても障害をもった方は、取り残されてしまう傾向にあります。

その要因のひとつは「障害をもった方と接したことがないため、自分事になりづらい」ということ。

私、馬場もブライトに入社する前までは、障害に関する知識はほとんどありませんでした。

 

 

そこで、私が障害をもった方と接する中で体験した

「こんなお困りごとがあるのか!」「こんな工夫や配慮があるんだ!」など、

目から鱗だった出来事をお話しします。

 

●10年前によく聞いた困りごと

私は、2010年に入社し、主に銀行や保険など金融系の仕事を担当していました。

その中で「障害者モニター調査」を実施し、銀行サービスについて困ったことを教えてもらう機会がありました。概ね3つに分かれます。

 

イメージ画像:ATMを使うサラリーマン

 

1つめは、ATMの操作が難しい

2つめは、窓口の表示が分かりにくい

3つめは? さて、何だか分かりますか?

 

答えは「書類の読み書き」。

最近は、書類の文字が大きくなったり、代筆サービスで対応したりと改善されていますが、当時は視覚障害の方から「書類に自筆でサインができない」という声を多く聞きました。

 

その後出会った弱視のTさんにその話をすると「私はサインガイドを使って、自筆でサインしているよ」というのです。

 

サインガイド???

はじめて見たときは、目から鱗が落ちました!

 

画像:サインガイド

 

黒いプラスチックでできた名刺くらいのサイズで、長方形の枠があります。この枠を署名する場所にのせて、枠の中に署名すればOK!なるほど!

 

最近では、印鑑の枠があり、紙幣を触って見分けられる機能も追加され、一段と便利になっているようです。

 

イメージ画像:契約・捺印

 

この弱視のTさんから教えてもらった、もうひとつの目から鱗があります。

それは「白い紙に書かれた黒い文字が見えづらい」という驚きの事実。

 

え!? デザイン畑で仕事をしていた私は、全ての人が「白い紙に書かれた黒い文字は一番見やすい」と勘違いしていたのです。

 

見せてもらったのは、黒いメモ用紙と白いペン。

画像:黒いメモ用紙と白いペン

 

なるほど〜。弱視といっても、見え方は人それぞれ。光を眩しく感じる人にとっては、白黒反転が見やすいため、この方はパソコンの画面も白黒反転して使っているそうです。

 

SDGsアイコン8働きがいも経済成長も

 

SDGsの目標8-10では

「金融機関の能力を強化して、すべての人たちが銀行取引や保険などお金に関するサービスを使えるようにする」

とされています。サインガイドや白黒反転ツールは、サービス利用時の助けとなっているのです。

 

イラスト:馬場の似顔絵 ★知っ得その1★

お札を識別してくれるアプリがあるのをご存知ですか?

 画像:スマホアプリ言う吉くん

 

国立印刷局では、目の不自由な人のために、iPhone用アプリ「言う吉(いうきち)くん」を無料配信しています。お札にiPhoneをかざすと、いくらのお札かを識別して音声と大きな文字で教えてくれる優れものです!

参考:お札識別アプリ「言う吉くん」|国立印刷局

 

 

●高齢者や障害者と接する機会がなくても、相手の立場になるには?

私はディレクターという立場でデザイナーと一緒に仕事を進めるのですが、大きな課題がありました。

若いデザイナーが多く高齢者や障害者と接する機会がほとんどないため、どのようなデザインが読みやすいのかは手探り状態なのです。

 

しかし、デザイン業界では課題解決に向け大きな動きがあったのです!

デザインをするときに、高齢者や障害者の見え方をシミュレーションしてくれるツールがたくさん開発されています。

 

画像:色弱の見え方メガネ

 

お手軽なツールのひとつがメガネ。

色弱といって色の区別が苦手な人は、日本に300万人以上いるのですが、その見え方をシミュレーションできる色弱疑似メガネです。

 

画像:高齢者の見え方メガネ

 

また、60歳を超えると、特に青色や緑色が見えづらくなると言われています。

そこで、32歳前後の若年者が擬似的に75歳の水晶体でモノを見ることができるメガネも開発されました。

 

グラフの左はメガネをかけない見え方、右が色弱模擬メガネで見たイメージです。

グラフ:メガネをかけない場合とかけたた場合

 

デザイナーだけでなく、お客さまにも「色の見え方は人それぞれです」「高齢者には黄褐色に見えます」など口頭で説明するよりも、メガネをかけてもらって体験いただいた方がイメージしやすいと好評です。

 

でもツールを購入するには、費用がかかりますよね。実はお金をかけずに、簡単にシミュレーションする方法があるんです。みなさんもひとつは持っていると思います。

 

次の目から鱗はこれ!クリアファイル!

 

イメージ画像:クリアファイルをもつ男性

 

障害者のリハビリテーションに従事しているM先生から教えていただきました。

手元の資料やパソコンの画面にクリアファイルあててみると、見え方がぼやっとして、弱視や高齢者の見え方に近いといいます。みなさんも是非試してみてください。

 

 

イラスト:馬場の似顔絵 ★知っ得その2★

聴覚障害の方が、YouTubeを見るときの工夫ってご存知ですか?

動画を見る時、聞こえない人にとっては「字幕」が付いていないと内容が分かりません。

しかし、YouTubeには「字幕」を付ける機能があるのです。

 画面:YouTube字幕ボタン

 

でも本当は、聴覚に障害のある人が無音で見ても分かりやすく、且つ、視覚障害のある人が目を閉じて聞いても楽しめる動画が、誰にとっても親切ですよね!

参考:字幕を追加する|YouTubeヘルプ

 

 

●今後の課題は、学びのバリアフリー化

 

ブライトのアドバイザーで、弱視のHさんが教えてくれました。

「以前は、障害者からの問い合わせは、たらい回しになることがとても多くありました。2016年に障害者差別解消法が施行されて以降は、対応がスムーズだし、銀行で働いている人のサービスが上がったと感じています。」

 

イメージ画像:小学校の授業

 

さらに、Hさんからの要望は学びのこと。「銀行って、預貯金だけじゃなくて、色んな商品を販売していますよね?保険とか、投資信託とか。私はあまり詳しくないので、障害のある子どもでも、小さい頃からお金のことを気軽に学べる機会が増えればいいですね

 

障害が比較的重い子どもを対象として、専門性の高い教育を実施している「特別支援学校」では約144,800人、小学校・中学校で障害の種別ごとの学級を編制し、子どもに応じた教育を実施している「特別支援学級」では約302,500人の学生が学んでいます(2020年度)。

 

このような障害のある児童生徒を対象にした教育では、どのような教材・教科書が使われているかをご存知ですか?

 

3択クイズです。

A 手で触って、お金の形や大きさを確かめるカード教材

B お金を並べて計算できる教材

C デイジー(デジタル録音図書)教科書

 

お金のイラスト:お札と硬貨

 

答えは、A、B、C全部!(3択ではなくてごめんなさい)

弱視や難聴、知的障害のある子どもたちでも楽しく学べるよう工夫されています。

 

なかでもデイジーは国際規格で、音声、ハイライト、検索機能など、読み書きの困難な人にも分かりやすい学習が可能。

日本でも部科学省が、発達障害等により、通常の検定教科書では一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な児童生徒に向けた教材のひとつとして、デイジー教科書を推奨しています。

 

パラアスリート向けマルチメディアデイジー

 

参考:マルチメディアDAISY「ごん狐」をAMISで再生|日本障害者リハビリテーション協会

 

SDGsの目標4-5では

「2030年までに、教育の男女差別をなくし、障害の有無に関わらず、あらゆるレベルの教育や、職業訓練を受けることができるようにする。」

とされています。

 

SDGsアイコン4質の高い教育をみんなに

 

しかし2020年、東京都の障害のある方に対する差別や偏見についての意識調査では「差別や偏見があると思う」(89.4%)と答えた人は9割近く。

「あると思う」と答えた429人に、障害を理由とした差別が生じると思う分野について聞いたところ、「雇用、就業分野」(85.1%)が8割半ばで最も高く、「教育分野」(47.1%)、「バス・鉄道等」(35.4%)、「商店・飲食店等」(27.7%)などと続いています。

 

障害者への配慮として、施設や設備のハード面や人的サービス面が向上している一方で、就労面や教育分野にはまだまだ課題があると実感しています。

今後も障害当事者とのコミュニケーションを大切に、少しでも差別や偏見をなくすよう、たくさん目から鱗を落として努力していきます!

 

イラスト:馬場の似顔絵 ★知っ得その3★

2021年7月に始まった「電話リレーサービス」とは?

テレビ電話で手話や筆談で話すことができるサービスです。多くの金融機関では、窓口で聴覚障害者向けに筆談を行ったり、電話リレーサービスを導入しています。

 手話イラスト:よろしくお願いします

 

私もひとつ、手話を覚えました。右こぶしを鼻から前に開き、頭を下げる手話、「よろしくお願いします」。

24時間、365日、聞こえない人と聞こえる人を音声でつないでもらえる公共の電話リレーサービスは、ますます広がっています。

参考:電話リレーサービス|総務省

 

 

 

投稿者:馬場耕一朗

多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒。学生時代、D.A.ノーマン「誰のためのデザイン?」に打たれ、利用者視点のデザインを志す。「馬場に頼んでよかった」と思ってもらえる関係性が築けるよう、額や脳に汗かき、何事も楽しみ、コミュニケーションを大切に仕事をする。