試合判定への不服申立てから1日以内に解決が原則。オリ・パラのスポーツ仲裁はどのようにして行われるのか
今年2月に閉幕した冬季北京オリンピック。スポーツを通じて世界中に多くの感動を届けた一方で、スキージャンプでのスーツ規定違反による失格やハーフパイプでの採点論争、フィギュアスケートのドーピング問題など様々な議論を引き起こす大会ともなりました。
スポーツの公平性に注目が集まる中、3月9日、日本スポーツ仲裁機構主催のシンポジウムが開催されました。副題は『東京大会・北京大会を踏まえたオリ・パラ大会関連紛争の実務について』。
競技とそれに付随する紛争について、シンポジウムの内容をまとめました。
スポーツにおいてどのような紛争が起こるのか
一般的にはあまり馴染みがないかもしれませんが、スポーツ競技では様々な紛争が起こり得ます。
例えば、昨年の東京オリンピック・パラリンピック(以下:東京大会)では15件もの紛争が起きました。紛争の内容は、出場資格について、ドーピングについて、審判の判定について…中でも審判の判定については日本人アスリートも巻き込まれた事案となりました。
日本人選手が巻き込まれた事例
▼8月3日午前:ボクシング当該階級の準々決勝
日本人判定勝ちとなった一戦で、試合後不服申立てが行われました。
▼8月4日16時:コロンビア選手代理人が申立て
不服の内容は以下の通り。
・コロンビア選手は3ラウンドを制していた
・日本選手はダメージが大きく、試合後は車椅子で退場
・上記を踏まえ、コロンビア選手の勝利、もしくは再試合とすることなどを主張
▼8月4日22時:様々な手続きを踏まえ、オンライン聴聞会(50分)の実施
聴聞会の参加者は以下の通りです。
・仲裁パネル3名
・コロンビア選手代理人、選手本人
・JOC代理人、選手団本部(選手を除く)
▼8月4日23時:裁定結果メール通知(結論のみ)
▼8月5日14時:CAS(ポーツ仲裁裁判所)から結果文書連絡
下記事由により、試合結果は正当な結果と決定。
・写真で提出した証拠は、ダメージを与えている場面を都合よく抜粋したものである
・車椅子での退場は減量後の試合で脱水、疲労によるもので、試合によるダメージではない
・事前に、今大会は試合直後の異議申立ては受け付けない旨の連絡があった
・「フィールドオブプレー※の原則」、すなわち試合中の判定が最重要視される
※原則、フィールドオブプレー(FOP)に基づき審判の判定について、
再審査はできません(審判員の決定に偏見や悪意が認められた場合などにおいて例外もあります)。
▼8月5日15時:日本選手による試合(準決勝)
迅速な解決のための専門機関、アドホック部
申立てから実に1日足らずでの解決。
先ほどの事例を見ていただくとわかるように、オリ・パラにかかる紛争は、その開催期間の短さに比例し、極めて迅速に行われます。
(…今回のシンポジウムに参加するまで、ここまで短期間で解決されるものと知らず大きな驚きでした)
この、スピーディーかつ的確な対応を行うためには専門的な知見や連携体制が必要不可欠です。そのため、大会期間中は申立てから原則として 24 時間以内で紛争解決するCASアドホック部(Ad hoc Division)が、1996年のアトランタ大会より設置されています。
アドホック部は、オリ・パラだけではなく、例えばサッカーワールドカップやアジア競技大会などおおきな国際大会で設置されます。
様々な紛争の事例を礎に、ここまで迅速・的確な紛争解決の体制が整い、アスリートが競技に集中できる環境が出来上がったのですね。
まとめ:紛争に備えて
当日は他にもアンチ・ドーピング(ドーピング検査)のプログラムや、東京大会・北京大会から導入されたIOC Playbookと呼ばれる新型コロナ対策についての講演が行われ、競技団体の方にとって実践的で実りのある講演となりました。
私が感じた、競技大会における紛争に備えたリーガルサポートは以下の通りです。
・大会が行われる現地法律事務所との連携体制(日本語/現地語) ・選手団内へのリーガルメンバー配置 ・紛争の手続について、各競技規則の熟知 ・他事例の把握(フロー、リスク管理など) ・紛争が起きた際のアスリートの心的負担の軽減※また、今日にあたっては下記のような充分な新型コロナ対策も必要不可欠です ・観客動員の判断 ・物理的接触を最小限に抑える ・海外の【バブル】方式を参考にした感染防止対策 ・マスクの着用 ・検査隔離の徹底 ・衛生管理 |
今回、シンポジウムのパンフレットデザインを担当させていただいたことをきっかけに参加させていただきましたが、華やかなスポーツの祭典がこのようにして成り立っていることを知る、とても良い機会となりました。
投稿者:南條 岳 株式会社ブライト 企画課課長 ユニバーサルデザインコーディネーター。 埼玉に生まれ、東京、大阪、福岡、京都、神奈川などで幼少期を過ごす。子ども写真スタジオでのカメラマンを経て2013年ブライトへ入社。外部でライター、イラストレーターとしても活動し、「わかりやすい編集」を得意とする。『高校生クイズ』が好き。 |
当日のシンポジウムは手話通訳や、日英の同時通訳に対応。多くの方に配慮されたアクセシブルなシンポジウムでした。