障害を身近に考える絵本『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』出版
老若男女、障害がある人もそうでない人も、みんなが活躍できる「ユニバーサル農業」をご存知ですか?
静岡県にある、めねぎ農園「京丸園」は、約100名(うち障害者24名)が働く農業法人です。最年少者18歳から、最高齢者はなんと82歳。
年齢や性別、障害の有無に関係なく、誰もが働きやすい場所にする秘訣はどこにあるのでしょうか?今回は、「ユニバーサル農園」が生まれるきっかけとなったお話を紹介します。
(協力:合同出版株式会社、京丸園株式会社)
1.障害を身近に考える絵本『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』
本書は、ユニバーサル農園として注目を集める京丸園での、障害者雇用にまつわる実話をもとにした絵本です。
絵本・紙芝居作家、挿絵画家として活躍する多屋光孫(たやみつひろ)さんが書き下ろし、京丸園株式会社 代表取締役の鈴木厚志さんと、妻で総務取締役の鈴木緑さん、そして共用品推進機構 専務理事の星川安之さんが編集協力しました。
ある日、鈴木さんのもとに、特別支援学校の山田先生が生徒を2人引き連れてやってきました。そしてこう言います。
「生徒たちを、めねぎ農園で働かせてもらえませんか?」
めねぎ農園「京丸園」の物語は、ここから始まります。
★最初の「ガーン」★
生徒のうち一人は動作がゆっくりとしていて、もう一人はぼんやりしている。鈴木さんは「頼りないな、どうやって断ろうか」と考えを巡らせました。
そして、めねぎの植え込みには熟練の技術が必要だと実演して見せ、「これができないと、うちでは働けない」と伝えたのです。
しかし1週間後、山田先生が再度農園に訪れ、ある身近な文具を使って、いとも簡単にめねぎの植え込みをやってのけました。
どんな文具なのか、分かりますか?
答えは下敷き!
「ガーン」
鈴木さんは「難しいと思っていためねぎの植え込みが、下敷きを使って簡単にできてしまうなんて」とショックを受けたのでした。
★★続いての「ガ・ガーン」★★
鈴木さんは、特別支援学校の生徒2人に試しに働いてもらうことにしました。1人目の生徒「あかさん」にお願いしたのは、100枚のトレーを綺麗に洗う仕事。
「トレーをちゃんと洗っておいてね」鈴木さんは、あかさんにそう伝えました。
1時間後、様子を見にきてみると、あかさんはまだ1枚目のトレーを洗っています。鈴木さんは山田先生に「トレーすらちゃんと洗えないなら、うちでは働けない」と伝えました。
すると山田先生から「“ちゃんと洗う”では分かりません。分かりやすく教えてあげないと」と言われました。どんな教え方だと思いますか?
答えは、何回、どのように洗うかを教えたのです。
「スポンジで5回こすってください」と教えると、あかさんはすべてのトレーを綺麗に洗い上げたのでした。
「ガ・ガーン」
鈴木さんは、自分の伝え方に問題があったことに気づいたのです。
★★★最後の「ガ・ガ・ガーン」★★★
2人目の生徒「あおさん」には農園の掃除と草とりをお願いしました。様子を見ていると、あおさんはゆっくりゆっくりと、園内を掃除しています。
「これじゃあ、明日になってもおわらないよ」
鈴木さんは不安に思いましたが、その思いとは裏腹に、園内は日ごと綺麗になっていったのです。
「ガ・ガ・ガーン」
そのとき鈴木さんは「仕事は早ければ良いというわけじゃない」と気づいたといいます。
そして、ゆっくり動かすをヒントに「むしトレーラー」という農機具を開発した鈴木さん。あおさんに虫とりを任せると、みるみるうちに虫は減少し、農薬を使わなくてもいいほどになったのだとか。
鈴木さんは、特別支援学校の生徒と一緒に働いたことで、「人を仕事に合わせる」のではなく、「仕事を人に合わせればいい」という気づきを得ました。
本書は障害を身近に考える絵本ですが、障害の有無に関わらず、すべての働く人にとって学び多き1冊です。読み進めながら「自分の働き方はどうだっただろうか」「具体的に、相手に伝わるように話せていただろうか」と振り返らずにはいられませんでした。
2.ユニバーサル農園「京丸園」
京丸園は、“福祉の視点”で作業を見直したことで、障害・年齢・性別に関係なく、多様な人たちが働けるユニバーサル農園となりました。絵本には、実際に働いている人のコメントや、そのお母さんの願いなども綴られています。
(画像:京丸園公式サイトより)
「めねぎ」とは、芽が出て間もない太さ1ミリほどの細いねぎのことです。京丸園でつくっているめねぎは「姫ねぎ」と名付けられ、さわやかな香りとほどよい辛み、歯切れのいい食感が自慢です。
野菜寿司のメインとしても、お肉で巻いて副菜としても美味しく食べられる姫ねぎ。平成23年度の「しずおか食セレクション」にも認定され、全国で高いシェアを誇ります。
※写真の「京丸姫ねぎ」は、都内のデパ地下で購入したものです!
京丸園の取り組みは、UDレポート「日本の”障がい者雇用モデル”として注目:ユニバーサル農園『京丸園』」でも詳しく紹介しています。 |
3.絵本のバリアフリー
この絵本は、視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために読み上げ用のデータが提供されています。
データは最後のページのQRコードから、テキスト版、Word版をダウンロードするか、合同出版のメール info●godo-shuppan.co.jp(●記号を@に置き換えてください)から申し込むことができます。
芳賀優子さんが描いた『ゆうこさんのルーペ』から始まった絵本のバリアフリー。この取り組みにより、より多くの方が本を読めるようになりました。
芳賀さんの書籍は、UDレポート「絵本『ゆうこさんのルーペ』出版!―共生社会ってどのように創るのだろう?―」でも詳しく紹介しています。 |
投稿者:白石果林 法政大学 現代福祉学部卒業。学校法人・一般企業にて8年間勤務したのち、フリーランスライターとして独立。福祉、働き方、事業承継などの分野で取材・執筆を行う。 |
共用品推進機構の星川さんは「人に仕事を任せるには2つの方法がある」といいます。1つは、「その仕事」ができる「限られた人」を探すこと。
そしてもう1つは、「その仕事」が「どんな人」でもできるように①仕事のやり方、②伝え方、③道具や環境を工夫すること。
京丸園のような農家や企業が増えたら、誰もが暮らしやすい共生社会の実現につながるのではないでしょうか。