図鑑で学ぼう!その3―SDGsの観点で目の不自由な人に行うべき配慮は?
目の不自由な人のことを知るには個人の意識向上が大切ですが、SDGsの観点から法人や団体でも行うべき配慮があることを知っていますか?
今回は、障害学習図鑑『目の不自由な人をよく知る本』(合同出版)の中から、SDGsにも通じる取り組みをご紹介します。
※『目の不自由な人をよく知る本』は、図鑑で学ぼう!その1―障害学習ビジュアルブック『目の不自由な人をよく知る本』のページで詳しく紹介しています。
1 目の不自由な人が仕事で活躍するには?
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」では、若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにすることが求められています。みなさんは目が不自由な人が、どんな仕事をしているかご存知ですか?
レイ・チャールズやスティービー・ワンダーが、失明しながらも音楽業界で活躍していることは有名ですが、この図鑑では、
・事務の仕事をするしょうたさん
・点字の校正をしているのぞみさん
・弁ご士のあみさん
・タイの図書館で働くよしえさん
などいろいろな分野で活躍している人の様子が描かれています。
(いろいろな仕事で活やくする人/本文34-35ページ画像提供:合同出版)
ブライトでは2007年の創業当初から、目の不自由な人と一緒に働く仕組みづくりを行っています。
■事例1:弱視や全盲の人の意見を取り入れた冊子
例えば、ブライトが制作した「銀行とトラブルになったら?全銀協ADRで解決」の冊子では、目の不自由な人に「モニター調査」という仕事をお願いしました。
(目の見えにくい人のくらしと道具/本文56-57ページ画像提供:合同出版)
図鑑には、弱視の人がルーペを使ってお店のメニューを読んでいる写真が掲載されていますが、モニター調査でも弱視の人にはルーペで冊子を読んでもらい、内容が理解できるかをアンケート用紙で回答してもらいました。
目の不自由な人にアンケートをお願いするときには、いくつか気をつけることがあります。
ポイント1:冊子やアンケート用紙は、音声読み上げソフトで聞くためのテキストデータも提供する
ポイント2:本音で意見が言い合えるよう、コミュニケーションをしっかりとる |
冊子やアンケート用紙などの紙媒体の場合、全盲の人は内容が全く把握できませんし、弱視の人は把握するのに時間がかかる場合があります。そこで、音声読み上げソフトで聞けるデータがあれば、スムーズに仕事を行うことができます。
また、目の不自由な人に限ったことではありませんが、自由に意見を言ってもらえるよう、電話、メール、ZOOMなどで密に連絡を取り合うことも大切です。
「よりよい冊子を作りたいので、どんな小さなことでもご意見ください」と、障害当事者の方に教わる姿勢で接することが、的確な回答を得ることにつながります。
「銀行とトラブルになったら?全銀協ADRで解決」の冊子のモニター調査では
・難しい用語があると、それを調べるのに時間がかかるので、専門用語は避けて欲しい
・ルーペを持ったまま片手で電話ができるよう、電話番号は裏表紙に大きく表示して欲しい
・障害者がどうやって相談に乗ってもらえるのか、相談方法を追加してほしい
など的確なコメントをいただき、冊子に反映することができました。
このように、目の不自由な人にモニターとして働いてもらうことで、冊子の内容が格段に分かりやすく改善され、目の不自由な当事者はもちろん、冊子を発注したクライアントにも大変喜んでいただいています。
見えない・見えにくい人の就労については、UDレポート『あまねく届け!光~見えない・見えにくいあなたに贈る31のメッセージ~』出版!をご参照ください。
2 目に頼らなくても理解できる教育方法は?
SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」では障害の有無に関わらず、教育や、職業訓練を受けることができるように求められています。目の不自由な人は、十分な教育を受けられているのでしょうか?
図鑑には、目の不自由な子どもの学び方が紹介されています。
・点字、拡大文字、デジタル教科書などいろいろな形態の教科書
・触図、模型、光の明るさを音の高低で表わす器具などの教材・教具
目の不自由な子どもたちの学習は、目に頼らなくても理解できるように、触ったり音声を使ったりして工夫されているのです。
(みさきさんの勉強法/本文30-31ページ画像提供:合同出版)
図鑑に登場する福祉施設で働くみさきさんは、大学時代にさまざまな情報を点字・音声データなどでまとめられているネットワークサイト「サピエ」で参考書をダウンロードして勉強したそうです。
なお、現在日本には、目の不自由な人は約30万人。そのうち点字を読み書きできるのは12%と言われています。そこで、知人の全盲の方に「音声技術が進んでいるので、点字は今後必要なくなるでしょうか?」と聞いてみました。
すると「確かに音声データで聞くことが多くなり便利です。しかし子どものとき最初に習った文字が「点字」なので、教科書や重要な書類は点字で読んだ方が理解しやすいんだよ」と教えてくれました。
(点字/本文68-69ページ画像提供:合同出版)
目の不自由な人にとって大切な情報ツールである「点字」について、この図鑑では、点字の仕組みや50音、点字用具などが丁寧に解説されています。
このように、目に頼らなくても理解できる教育の工夫がなされていますが、あなたがもし教材を作っている場合には、目の不自由なひとへの配慮がなされているかをチェックしてみてはいかがでしょうか?
チェック1:教材は紙媒体だけでなく、音声対応できるデータも用意する
チェック2:「点字」の資料を必要としている方には、個別に提供できる仕組みをつくる |
法人や団体が発行している教材は、PDFをWEB掲載していることが大半です。
しかし、図表やイラストがデザインされているPDFは、音声読み上げソフトに対応しない場合が多いことをご存じですか?
できるだけ、PDFの内容をアクセシビリティに配慮してWEBページに公開したり、PDFの文字情報を音訳してテキストデータに変換するなどの配慮を行うことが大切です。
詳しくは、UDレポート「図鑑で学ぼう!その2―広報・普及啓発で目の不自由な人への配慮とは?」をご参照ください。
■事例2:点字カレンダー
2014年からブライトでは、視覚障害者施設さんの協力のもと、点字カレンダーを制作し点字の普及啓発に努めています。
点字はテキストデータがあれば、少ない数量の点字印刷を低価格で行うことができるので、必要な方には提供できる仕組みをつくることが望ましいでしょう。
3 「知る」ことで不平等をなくそう
SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」では、年齢、性別、障害などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようする、とされています。
私の主観ですが、法人や団体の取り組みは、意図的に「差別」しているのではなく、目の不自由な人が必要な配慮を「知らない」ことが、不平等につながっているケースが多いように感じます。
図鑑の最後の章に、目の不自由な人の権利や制度、参考になる書籍やホームページの情報が掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
(目の不自由な人の権利・制度/本文92-93ページ画像提供:合同出版)
ブライトでも、目の不自由な人や色の見え方が違う人のことをもっと理解するために、さまざまな団体や企業と連携しています。
公益財団法人 共用品推進機構 | 高齢者や障害者の「不便さ調査」「良かったこと調査」を実施して公表している |
NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構 | 冊子や製品などの色による情報伝達に問題がないかを色弱である当事者が検証し、認証マークを発行している |
NTTクラルティ株式会社 | NTTグループの特例子会社として、肢体不自由、視覚障がい、聴覚障がい、内部障がい、知的障がい、精神障がいなどの方々が働いている |
まずは、目の不自由な人のことを個人として知る、そして団体や企業の責務として、不平等にならないような配慮を一歩づつ進めていくことが、SDGsの観点でも今後ますます必要となっていくのではないでしょうか?
出版のバリアフリー
図鑑『目の不自由な人をよく知る本』は、本を購入された目の不自由な方や支援者のために、音声読み上げ対応のテキストデータを無償提供しています。本の最終ページのQRコードから、または合同出版株式会社(電話:042-401-2930)で申し込みができますよ。 |
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情報の約8割は「目」から得ていると言われています。
誰一人取り残さないというSDGsの目標達成のために、目の不自由な人へ配慮することはとても大切です。
まずは目の不自由な人のことを知ること、そして周囲に伝えたり、一歩でも行動したりすることが持続可能な社会の構築につながっていくのです。
この図鑑は、大切なことをたくさん教えてくれますよ!