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当事者連載

2026.01.26 月

【当事者連載】ようこそ、ロービジョンの世界へ ~第2回 ロービジョン夫婦のスペイン旅~

 第2回のコラムは、「海外旅行」がテーマです。
ロービジョンの夫と二人で、11月21日から12月5日まで、スペインの西北部を旅してきました。私たちは、短期間に何カ所もの観光地をまわる一般のパッケージツアーには、とてもついていけません。たとえるなら、半日市内観光に3日かけるペースです。だから、いつも自分達で旅程を立てて、すべて手配をして旅をしています。何事にも時間をかけて行います。

第1回はこちら。

旅も綿密な情報収集から

今回のスペインへの旅は、4月ごろから情報収集を始めました。

当初は、南東部の地中海地域を旅する予定でしたが、この地域は、日本ではあまり紹介されていません。そのため、地元の図書館で「地球の歩き方」の元となった英語版”Lonely Planet”を借り、スペイン語と英語でインターネット検索をして、情報を集めました。そこでわかったことは、11月から翌年の3月ごろまでは、殆どの観光スポットが休業に入り、改修工事などが行われているということ。スペイン国内での行き先を変更することにしました。

私たちは迷うことなく、スペイン北西部のガリシア地方を旅することにしました。

スペインの地図。ガリシア州はスペインのもっとも北西に位置している
ガリシア州はスペインの北西、ポルトガルの南に位置している
画像:User:Mutxamel 作(日本語地名を追加)
Licensed under CC BY-SA 4.0
https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/

北はカンタブリア海、西は大西洋、南はポルトガルに囲まれた4つの県から成る自治州で、スペイン国内の魚介缶詰の5分の4を生産しています。太陽が輝き、オリーブやひまわり畑が広がる乾いた大地というイメージとは正反対で、日本のように降水量が多く、森や林には松が生い茂る景色は、まるで日本にいるのかと思うほどです。スペインには4つの公用語がありますが、その一つが、この地域の言語「ガリシア語」。ポルトガル語に似ていて、とてもやさしく歌うように響く言葉です。

ガリシアのガラスの街ア・コルーニャ、塔の美しいビラルバ、城壁都市ルーゴをまわり、ルネサンス建築の宝庫サモラ、そしてマドリッドから電車で約1時間の大学都市、アルカラ・デ・エナーレスで旅を締めくくる旅程を計画しました。

インターネットとAIをフル活用

ガリシアについては、都市名のようなざっくりした情報しか持ち合わせていませんでした。ここで役立ったのが、AI(人工知能)検索です。いつも利用しているMicrosoft Edgeのトップページから、ショートカットキーで、簡単にAI検索画面(Copilot)を出すことができます。

「ルーゴという街を、徒歩だけで観光するルートを教えて」
「サモラのルネッサンス様式の建築物を見たいのですが、見るべき建物の名前を教えて」

という具合に検索をして、具体的な建物名や観光ポイント名を調べます。本当に存在しているのか?観光は何時から何時までできるかといった情報を、サイトでもう一度調べるという方法で、できるだけ確実な情報を集めました。

私の視力では、グーグルマップなどの地図を検索するのは難しいので、旅程を確定させてから、夫に調べてもらいました。はじめていく街で、頭の中に地図がない状態で観光するのは、私たちには無理です。夫は、約ひと月かけて、グーグルマップを調べに調べて、街の地図を頭に入れ、ある程度の観光ルートも頭の地図上に入れていきました。

ビラルバの塔、典型的なガリシア風の家
ビラルバの塔、典型的なガリシア風の家、右には歴史的な建物を国営ホテルとして活用している「パラドール」本館。 冬の寒さと強風に備えるため、ベランダが突き出ていてベランダを挟むように二重ガラスの窓になっています。

難しかったホテル選び

コロナの後、首都マドリッドのような大都市のホテルの価格は、以前の2倍に跳ね上がっています。マドリッド市内への宿泊は予算的に無理だと判断して、到着した日は空港ホテル、帰国前は電車で1時間の街に宿泊せざるを得ませんでした。大きな誤算です。

また、タクシーよりもウーバーのほうが移動手段として使われるようになってきていました。価格やルートのトラブルが少ないことが、その背景にあるようです。ウーバーを安全に利用するには、乗用車のナンバープレートが見えなければなりません。これにはほとんどお手上げでした。便利なはずのサービスが使えない不便さを感じた瞬間です。そのため、バスターミナルや鉄道駅から徒歩1キロ圏内のホテルを、かなり時間をかけて探すこととなりました。

予約フォームやメールでのやり取りで、必要なことを交渉しました。例えば、空港ホテルには、「白い杖を持った2名が送迎のバスを利用するので、運転士に伝えておいてほしい」と、前もって連絡を入れました。そのメールの返信には、バス乗り場への詳しい行き方の説明と、バスに乗るときに必ずホテル名を運転士に確認するようにとありました。その通りにしたら、たくさんのホテル送迎バスの中から、スムーズに目的のバスに乗り、無事にホテルに到着することができました。旅行では、国内外を問わずに、前もってのやり取りがとても大切です。それが、当日のスムーズな行動につながるのです。

ネットは便利、でも最後は人

塔の街ビラルバでは、グーグルマップに載っている飲食店が、ことごとく閉まっていました。え!!今日はお昼抜きかしら?そこでたまたま近くにあったカフェに入り、聞いてみました。

「ここで食事はできますか?」
「ここはカフェだけなんだ。ここを出て右に進んで、最初の○○通りに出るよ。その通り沿いに右方向に歩くと、左側にレストランがある。あそこなら開いてるよ」

その通りに行ったら、レストランがありました。スペインのランチセットは、前菜とメイン料理、それにデザートかコーヒーを選べます。それに、ワイン、または水がつきます。前菜はガリシア風パイ、メインはお店のおすすめ、ガリシア風牛肉の煮込みにしました。

「飲み物は、ガリシアのハウスワイン、赤にしたいんですが」
「そうだろう?それしか選択肢はないよ」

会話が通じるとはこういうことなのかと、思わず納得しました。翌日のランチも、もちろんここです。2日間で、すっかり常連客となりました。

やはり最後は、地元の人の持っている情報が頼りになりました。

料理写真。炭火で焼いた牛肉の上に赤パプリカ。脇にフライドポテトが添えられている
2日目ランチのメイン、牛肉のガリシア風炭火焼き

城壁都市のルーゴは、城壁の中に入れば、車やバイクの規制があるので、私たちでも比較的自由に散策することができます。
私たちが出かけた時は、学校帰りの小学生で大賑わい。城壁にのぼり、その上を散策できるのも大きな魅力です。ジョギングをしている人もいます。城壁そのものが、すっかり市民の生活の一部になっていると感じました。車の心配をせずに、城壁の外にさえ出なければ、道に大きく迷うこともありません。自由に道を歩ける開放感がとても心地よかったです。だからきっと、私は城壁に囲まれた小規模な都市が好きなのかもしれません。

風景写真。城壁の上は段差や障害がない道
ルーゴの城壁の上。道の幅は3メートルくらいなので、充分ジョギングすることができます。

どの都市に行っても、障害のある人たちを見ない日はありませんでした。一人で、または誰かと一緒に歩いている姿は、自然に街の景色に溶け込んでいます。レストランのテラス席で車いすの妙齢な婦人が優雅に食事をしているし、バルに立ち寄る視覚障害の常連客を店員さんが気軽に中に誘導しています。

私たちも、その景色の一部なのです。それが、何よりも私たちの心をとらえて離しませんでした。

【編集後記】視覚障害を持った方がどのように旅を満喫するのか、綿密な準備やレストランやカフェの方々との交流など、気付きもありながらひとつの旅行記としてとてもワクワクする記事でした。皆さんの心に響いた一節があるかと思います、私は最終行の”私たちも、その景色の一部なのです”に胸を打たれました。

次回は、今回のような旅行が大好きな芳賀さんが実感した移動に関する悲喜交交をお届けする予定です。